第15章「嘆きと大地の歌」 1-26 勝手にせよ
「だ! 誰のせいでウルゲリアが滅び、民が飢えていると思っているのか!!」
「ウルゲリアの聖魔王と、聖魔王を利用して国を支配していたウルゲリアの神狂いどものせいかと」
すました様子でそう云ったリースヴィルを、ターヴが睨みつけた。
「なァにぃ……!!」
リースヴィルはしかし怯みもせず、
「よろしいか。いま、世は1000年ぶり乱れ、滅びの道を歩もうとしている。異次元魔王聖下は、それを救うことのできる唯一の御存在。その瀬戸際で、国の1つ2つが滅ぶなど、些事で御座る。まず、それを弁えなされ」
「な、ぶ、ぶぶっぶ、ぶれ、無礼、無礼……な……!!」
リースヴィルにルートヴァンが透けて見え、ターヴは顔を真っ赤にして震えだした。しかし、すぐにふらついて、うめきながら玉座に座りこんだ。
「へ、陛下、御気を御鎮めに……!」
侍従がそう云い、冷たい水を持ってこさせる。高血圧なのだ。
「……陛下、もう、後戻りはできぬのです。どの国も。で、あれば……最小限の被害で済ませることを、御考え下さいますよう」
リースヴィルがそう云って深く礼をした。荒い息で、ターヴがそんなリースヴィルを見やり、
「……てにせよ……」
そう、つぶやいた。
「勝手にせよと申されましたか?」
悪魔のように頬を引きつらせて、リースヴィル少年が上目を向ける。
「勝手にせよ!! その代わり、王家とバクス公爵領以外の土地の保全を、約束せよ!!」
リースヴィルが、にんまりと笑みを浮かべ、
「畏まりまして御座りまする」
また深々と礼をした。
とはいえ、バクス公爵領はホルストン王国のほぼ中央部に位置し、国衆も多く仕えている。周囲には重要な王国貴族の領地もあって、公爵領だけをどうやって誅滅するのか。
「さすがのヴィヒヴァルンでも、各国の詳しい地図までは入手できません。しかし、帝都の地下書庫で、面白いものを見つけましてな……」
「地図かい?」
天幕の中で、ルートヴァンがこっそりと出した薄く大きな冊子に、オネランノタルが目を止める。
「少々古いですが……地図というより、書物で」
「おいおい、帝都の地下書庫は、持ち出し厳禁じゃなかった? 魔術的にね! どうやって?」
「複製ですよ、もちろん」
ルートヴァンがそう云って笑ったが、かなり精巧だ。表紙までしっかりしている。
「ほんとに!?」
オネランノタルが、楽し気に笑う。
「『ホルストン王家と6公爵家』という、くだらぬ自慢話の類ですが……各公爵家の詳しい場所が載ってましてな」
「こんなもの、すかさず写しを作るのが、大公らしいね!」
オネランノタルの言葉に、ルートヴァンはニヤニヤするだけで答えなかった。
とはいえ、正確な測量地図ではない。我々の概念で云うと、絵図のようなものだ。
「しかし、主要な都市などは分かる……と。城と城下に1発、北部の主要都市にそれぞれ1発ずつで2発、南部は、如何致しましょう?」
「穀倉地帯に2発だ」
オネランノタルが、悪魔のような声でそう云った。
「フ……完膚なきまでに叩きますか」
「とうぜんだろう?」
「ですな。あと、この領境の大きめの街にも落としておきましょう」
「隣の領土にも被害が出るだろうね!」
「知りませんな。恨むなら、バクス公を」
「だね!」
ルートヴァンの天幕で何の話をしているのかというと、もちろん、バクス公爵領への攻撃の話である。
そう。
隕石攻撃だ。
元から似たような魔術はあったが、落とす隕石が適当なものだったので、どちらかというと「流れ星を作る魔術」ていどの意味合いしかなかった。間違って地面に落ちたら「失敗」だ。
それが、ガフ=シュ=インで星隕の魔王リノ=メリカ=ジントの飽和隕石攻撃を目の当たりにし、その効果と恐ろしさを体感した。
それを試してみようというのだ。
しかも、未だ天には魔王の呼び寄せた大小の岩石が数千万単位で漂っている。
どれほどの大きさの岩石を、どの角度で落とせば効果的に地上を破壊できるかという実験でもあった。




