第15章「嘆きと大地の歌」 1-24 息子の復讐
ルートヴァンらが眼をしばたたかせ、やがて互いに見合った。そのままルートヴァンが代表して、
「ええと……聖下、しかし、なぜ……その人物が、大枚をはたいてまで我らを? 個人的な怨恨なのでしょう?」
「これは、ルーテルさん方は御存じないことで、プランタンタン達3人と、タケマ=ミヅカさんのみが知っていることですが、私はヴィヒヴァルンに入ってすぐ、カルローという村落で、勇者ウェッソンという人物を撃退しました」
「はあ」
「その勇者ウェッソンは、バクス公の子息とのことです」
「…………」
また、一同が黙りこむ。
「えー……つまり、その……息子の復讐で……?」
「端的に云えば、そうでしょう」
まっさきに吹き出して笑ったのは、なんとフューヴァだった。
「なんだよ、そりゃあ。思い出したぜ、ストラさんに手も足も出なかった連中が何人もいたよな。ヴィヒヴァルンに来たばっかりの村でよ」
そう云ってプランタンタンを小突いたが、プランタンタンは、
「覚えてねえでやんす」
「息子が殺されたのは気の毒だけどよ……立場のあるヤツが、そこまでするかね」
「まったくだ」
ルートヴァンも苦笑し、
「で、あれば話は早い。みなに提案がある」
とある作戦を説明した。
その説明にホーランコル達が仰天して目を丸くし、フューヴァも驚いて口をへの字に曲げたが、確かにルートヴァンの云う通りだと思った。
「どうだ? みんな……」
「どうだもなにも、アタシらにゃあどうにもできないことだぜ。ルーテルさんとオネランノタルで決めりゃあいいじゃねえか」
「僕らだけでどんどん決めたところで、いつか硬直する。思考がね。フューちゃんや、ホーランコル達の意見こそ、聖下の新しい世に必要なんだ」
「よく云うぜ」
そう云いながらフューヴァが、
「ホーランコルはどう思うんだよ」
「いや……確かに、この機会にケリをつけたほうが、今後もうざったい襲撃が無くてよいとは思いますが……」
ホーランコルがそこで、ルートヴァンを見つめた。
「思いますが……なんだ? ホーランコルよ。遠慮なく云ってくれ」
「どこまでおやりなさる?」
「どこまで……とは?」
ホーランコルが真剣な表情となった。キレットとネルベェーンも、ホーランコルが云わんとしていることが分かり、厳しい顔つきでホーランコルとルートヴァンを見比べる。
「ホルストン王国全てを、討ち滅ぼすおつもりで? それとも……」
「それは、ホルストン王の返答次第よ」
「左様で……」
ホーランコルは、それ以上は何も云わなかった。ホルストンがウルゲリアと同じ運命をたどるのかどうか……それは、王の判断による。その通りだった。ウルゲリアは、それを誤った。それだけだ。
その日、53歳になるホルストン王ターヴ7世は午前の執務を終えようとしていた。
王は、異次元魔王一行が南部の広大な荒野に入ったことも知らないし、バクス公が討伐のために私費で雇った刺客を送りこんでいることも知らない。
ただ、王国を支える6公爵家のうちの1家が、末子の仇討騒動でおかしくなってきているのに、悩んでいるといった状況だった。
(ウェッソンのことは気の毒ではあったが、相手は魔王……どうしようもないだろう)
それが王の考えで、それはウェッソンの長兄で跡取りのバークス卿も同様だった。
(バントラックのやつめ……なんとか、頭を冷やしてほしいものだが)
暖炉の前で血圧を下げる薬草茶を飲み、休憩していた王に、従者が転がるように駆けこんできた。
「陛下、陛下! 御寛ぎのところ……御急ぎ、謁見の間へ!」
「何事だ」
恰幅の良い王が、目元に皺を寄せた。
「イッイ、イジゲン魔王から、使者が……!」
「なぁあにい!?」
茶を吹き出しかけ、王が目をむいた。
「御急ぎ……!」
「今すぐ参る!」




