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第15章「嘆きと大地の歌」 1-23 バクス公爵

 「な……」

 プランタンタンが息を飲んで、

 「何をやっていなさるんで……?」

 「別に」

 「へえ」

 「どうしたんだよ、プランタンタン」


 続けてフューヴァが顔を出した時には、ストラはもう腕を下げて突っ立っていた。


 「なんか、あったんすか? ストラさん」

 「別に」

 「なんでもねえじゃねえか」

 フューヴァがまた天幕テントに引っこんだ。


 プランタンタンは半身を乗り出し、美しい薄緑の眼を細めて薄い雲の流れる青空を見あげたが、何が何だか分からなかった。


 「……」

 そのまま、無言で天幕テントに入る。


 ストラが攻撃したのは、ずっと上空高くに制止して一行を監視していた、軍事偵察衛星めいた魔族だった。宇宙空間ほどではなかったが、成層圏近くで、地上の一行を強力な目視と魔力探知で探り、刺客どもに魔蟲まむしを使って逐一位置情報を伝えていたものだ。


 ストラは両腕の合間に大気成分からプラズマ球を造りだし、それを超強力な電磁場のレールで発射した。荷電粒子電磁砲チャージド・パーティクル・レールガンだ。


 大気も地磁気も貫いて、卓球の球ほどの粒子プラズマ弾が一撃で目玉の魔族を粉微塵にした。


 以後、ストラたちの位置情報は、完全にバクス公に依頼を受けた組織には届かなくなった。



 翌日、ルートヴァンが早々に戻って、その翌日にはピオラが、さらにその翌日遅くにホーランコル達3人、そしてその翌日にオネランノタルが合流した。


 「全員、無事のようだな」

 ルートヴァンが満足げに皆を迎えた。

 「大公こそ。少しは楽しめたのかい?」

 ニヤニヤと四ツ目で嗤うオネランノタルに、ルートヴァン、

 「フ……オネランノタル殿こそ、少しは遊べましたかな?」

 「まあまあだね。それなりに面白い報告があるよ」

 「ほう……それは楽しみなこと」

 そこですかさずオネランノタルが魔力通話でルートヴァンだけに、


 「大公、襲ってきた魔族の中に、明らかに魔王の手下と思わしき強力なヤツがいた。バーレに、我々の知らない魔王がいる可能性が高いよ」


 「バーレに? しかし、どうしてまた魔王が賞金稼ぎめいたことを?」


 「それは分からないね! だけど、我々に怨恨を持つものが、魔王に直接頼んだとは考えにくい。何らかの、魔王と接点のある組織か人物に、高額で依頼したと考えるのが妥当じゃないかい?」


 「なるほど……心に止め置いておきましょう」

 そして、ルートヴァンが改めてみなに向き直る。


 「さて……まだ、少し残っているやもしれんが、我らの探知にすら引っ掛からぬほどの雑魚だ。放っておこう。それより……」


 その日は気温がぬるく、過ごしやすかったので、夕刻前に天幕テントの前で簡易コンロに火をおこし、軽い作戦会議を開いてルートヴァン、


 「けっきょく、我らに相当な無理をして多額の賞金をかけた極めつけの愚者の正体は分からずじまいだ。こちらから探るのも手間だし……これ以上の暇つぶしは逆に面倒。どうするか……というところだが」


 「ホルストン王国に、バクス公爵なる人物がおります」 


 ふだんは少し離れたところで何処とも知れぬ虚空をひたすら凝視しているストラが、珍しくこの場にいると思ったら、いきなりそんなことを云ったのでルートヴァンやオネランノタルも息をのむ。


 「バクス公……」

 「知っているのかい? 大公」


 「名前だけは……。バクス公爵バントラック卿です。ホルストンの重要な貴族ですが……その人物が、いかがされましたか?」


 「そのバクス公爵なる人物が、我々に賞金をかけ、魔族や賞金稼ぎ等を多数雇って襲わせた主犯です」


 「…………」

 一同が絶句する。

 「え、なんですって!?」

 ルートヴァンの素っ頓狂な声に、ストラはいつも通りの独白を開始。


 「先般撃滅した高高度偵察用務魔力子マギコリノ依存生命体は、遂次そのバクス公の元へ伝達用魔力子マギコリノ端子を放っていましたので、独自にテトラパウケナティス構造体分離方式による疑似偵察衛星により、バクス公の動向を探っておりました。過去の空間記憶も参考にし、状況を解析したところ、そのような結論に達しました」

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