第15章「嘆きと大地の歌」 1-22 青炎の最期
それが分かれば、ストラやルートヴァンにとって、極めて重要な情報になるだろう。いま、全く未知の魔王が帝国内に1人、帝国外に1人いる。(ことになっている。)
青炎はしかし、オネランノタルの問いを無視し、急激に魔力と熱を集中させて、オネランノタルに照射した。虫眼鏡めいて、オネランノタルに高温が一点集中する。
(爆散しろ!!)
青炎が、渾身の力でさらに熱を集めた。
ただの熱ではない。
魔力に点火できる、魔による魔の熱だ。
(答えないのが答えだね、このトンチキが!! それに、ゾールンの攻撃やフローゼの魔力阻害装置のほうが、戦慄したよ!!)
オネランノタルが自身の魔力を操作し、反射効果を発揮。高性能な反射鏡が出現し、高熱が一気に反転した。
(なぁあにぃいいいい!?)
青炎が自らの発した熱をまともに浴び、熱に熱が加わって自身を構成する魔力に引火する。自身の熱をコントロールできない。
(こッ、っここ、こんなことが!?)
青炎め、自分でも自分がどうなっているのか、分からなかった。こんな高熱を集中して食らうのは、初めてだ。
自分の身体を構成する炎が熱で吹き飛び、大穴が空く。
炎の檻に、穴が開いたのだ。
すかさずオネランノタルが脱出し、逆襲に入った。
空中で散り散りに燃える青い炎に向かって、魔力の動きを止める効果を放った。
そう。
フローゼの、魔力阻害装置にヒントを得た必殺の攻撃だ。
(なあッ!! なんだッ……なん……これ……は……!?!?!?!?)
青炎、この攻撃も初めて食らう。対処のしようが無い。魔力が動かぬ。熱が消える。意識も保ちようがない。
物理的な魔力中枢を持たないタイプの魔族である青炎も、魔力の動きを止められては どうしようもない。
「……!! …………」
意識を逃がすこともできず、青炎は完全に消失した。
オネランノタルは、魔王の号や名を聴きだせなかったことに少し顔をゆがめたが、
(……新たな魔王の手の者が接触してきていることが分かっただけでも、よしとしよう。それより……)
マンモス魔獣の中にあったと思われる、謎の緑シンバルベリルだ。
オネランノタルは幽鬼のようにフラフラと空中を飛び回って、爆発の跡地を隈なく探したが、魔獣もシンバルベリルと思わしき物体も、跡形も無い。
(まさか、誘爆したってのかい? そんな、ばかな……)
それほどの爆発ではなかったと思ったが、そもそも緑色の特殊なシンバルベリルだ。常識では計れなかった。
(それとも、シンバルベリルじゃなかったのかな……?)
ただ単に、魔獣の眼が自身の強力な魔力を映して緑に光っていただけなのかもしれない。
(なあんだ……)
急激に興味をなくし、オネランノタルはその場を去った。
そのまま半日ほど荒野を偵察したが、強力な魔力をもう感知しなかったので、ストラやルートヴァンの元へ戻った。
そのストラも、皆がいなくなってしまってから、ずっと天を見あげていた。
風が強いため、晴れたり曇ったり、雲の動きが忙しない。
プランタンタン、ペートリュー、フューヴァの3人は、ルートヴァンの風よけ魔法や防寒魔法があったとしても、底冷えに耐えて凝として天幕の中で過ごしていた。簡易的な魔法の焜炉もあるが、スト-ブというほどのものでもない。
今更ながら、寒風吹きすさぶ中、腕を組んでひたすら天を睨んでいるストラに、
「なんで、ストラの旦那は寒くねえんでやんしょ」
「知らねえよ、直接聴いてみりゃいいじゃねえか」
「聴いたところで、どうせ『よく分かんねえ』でやんす」
「分かってるじゃねえか」
フューヴァが苦笑し、プランタンタンも目を細めて肩を揺らした。ペートリューは、ひたすら帝都で買い溜めしたリヤーノをストレートであおっている。
と……。
分厚い布地のテントすら通り越して閃光が周囲を照らし、すわ、近くに落雷かと思って3人が身をすくめたが、いつまでたっても雷鳴がせず、おそるおそるプランタンタンが天幕から顔を出した。
ストラが中腰の姿勢で、両手をかなり高い角度で上空に掲げていた。
その両腕の合間でプラズマ状の火花が走り、空気が熱で歪んでいる。強烈に大気がイオン化したにおいがし、プランタンタンはピスピスと鼻を鳴らしてその空気を嗅いだ。




