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第15章「嘆きと大地の歌」 1-21 数十の火球

 それは、青炎も同じだった。会敵してまだ数分と経っていないのに、この魔力供給源の魔獣に気がつくとは。


 「ナニモノなんだよ、おまえ!」

 「うるさいな!!」

 オネランノタルが魔獣ごと破壊しようと、数十もの火球ファイア・ボールを出す。

 数十だ。同時に。


 人間の魔術師では、とうてい制御しきれずに自爆する数だった。たとえ、ルートヴァンでも。


 「バケモノめ!!」

 青炎が肝を冷やし、逆にいったん姿を消す。

 そして魔獣の上に瞬間移動すると、魔獣ごと強大なバリアを張った。

 凄まじい連続爆破が、マンモス魔獣と青炎を襲った。

 一発一発が、また、重い!

 凄まじい衝撃と熱が、バリアを通しても伝わった。

 (こッ! これほどの魔族を従えているのか! イジゲン魔王とやら!)


 オネランノタルも、激昂し、ただ闇雲に火球をぶつけていると見せかけて、精妙に魔力を操っていた。全方位からの連続発破で青炎の注意を引きつけつつ、青炎がバリアを調整して厚さを増している隙をつき、逆に薄くなっている箇所、あるいは不安定になっている箇所を探す。魔力バリアと云えど、工業製品ではなく術だ。術者が乱れれば、術も乱れる。もっとも、魔族は魔法ではなく魔力の直接行使だが……よけいに職人技が求められる。それほど、魔力の持つエネルギーを操作するのは難しい。


 さらに……。

 一部の火球が、地面を穿って穴を空けていた。


 バリアで弾かれ、地面に落ちていると見せかけて、オネランノタルは慎重に地下から侵入を試みた。案の定、バリアは地上部だけに展開していた。


 「何から何まで甘いんだって!!」


 翠と黒の四ツ目を見開き、オネランノタルが魔力を超絶集中。青炎が懸命に魔力バリアを操っていたその足元より、地面を裂いて複数の火球が飛び出てきた。


 その魔力に青炎が気づいた瞬間、バリアの内側で5つの火球が炸裂!


 同時にバリアが乱れ、裂けた隙間より火球が侵入。30近い火球がいっせいに誘爆する。


 結局、高々とキノコ雲が上がる勢いで大爆発が起きた。

 爆風を魔力で防いだオネランノタルが、空中で雲を見あげて狂笑を発した。


 「アァアアァヒャーーーーーーーーーーーーーッッッッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャああああああああああ!!!!!!!!!! 舐め腐ったヤツが!!!! いい気味だあああああああーーーーーーッッヒャヒャヒャヒャッッハッハアアハハッッハハハあああーーーーーッッッ!!!!」


 ちょっと構成の変わった魔族で、オネランノタルも初めて出会うタイプのやつだった。どう攻めようかスリルがあった。見事に倒したという高揚感は、魔族も人間も変わらない。


 「ハ……」


 煙が風に流されてきて、我に返り、地上へ目を移した。あの妙な色のシンバルベリルが残っていれば、ルートヴァンに見せてやったら喜ぶだろうと考えた。


 (あの程度で、誘爆したとは考えられない……それに、もし誘爆していたら、爆発はあんなものじゃ……)


 そのオネランノタルの周囲に、鬼火のように小さな青い炎が、ボッ、ボッと連続して出現した。その数、9つ。立体的にオネランノタルを囲み、強力に魔力で檻を構成する。


 (え……!?)


 オネランノタルが息を飲んだ時には、凄まじい威力の炎が周囲を囲み、檻となってオネランノタルを捕らえていた。


 「なんだよ、これはあああ!?」

 オネランノタルが四ツ目を吊り上げ、額の茜色のシンバルベリルが光った。

 「おまええええ!!!! 無事だったッてのかああああ!?」


 「無事なワケがあるか!! このバケモノが!!」

 青い炎というより、周囲の空間全体から声がした。 

 「死ぬかと思ったぞ……!」

 「だから、なんで死んでいないんだよ!?!?」


 青炎の魔族、魔獣の魔力をすべて使って、僅かながらも空間窓を開き、意識(魂魄)だけでもそちらに避難させたのだ。魔王級の力技を行ったことになる。この魔族は、意識と魔力さえあれば、いくらでも復活が可能だった。


 いま、再びオネランノタルの周囲に高熱が集中し、青炎が高濃度魔力に満ちるオネランノタルに点火を試み始めていた。


 しかし、この圧力では、たとえオネランノタルを爆破せしめたとしても、青炎自身も無事では済まないのではないか?


 「おまえ、死なばもろとも・・・・ってか!? そこまでするのか!?」

 「だまれ!」

 オネランノタルは、この魔族がどうしてそこまでするのかを考えた。

 答えは、1つだ。

 「さてはおまえ、魔王に仕えているな!? どこのなんていう魔王だ!?」

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