第15章「嘆きと大地の歌」 1-16 魔法の道具
ホーランコルは、それを待っていた。
対魔効果+160だ。
ホーランコルが布の端に剣の刃を押しあてる。
その刃が、引っ張られた布を切り裂き、ルゥイーが悲鳴をあげた。
さらに、ホーランコルは自分でもルゥイーの身体を左手で握り、引っ張りながらさらに剣の刃を突き立てた。
ビリビリと音がして、対魔効果によりルゥイーの身体がさらに焼け切れる。
「こやつがァアああ!!」
ルゥイーが苦痛に耐えながらも、さらに強力にホーランコルの顔と首を絞めた。
ホーランコル、迷わず自分の首に剣の中ほどを押しつけた。
対魔効果により、ルゥイーの身体だけが焼け裂け、絞める力が弱まった。
(なんというヤツだ……!!)
ルゥイーがたまらず、ホーランコルから離れた。身体の3/1ほども失い、再生が始まっているが、フラフラだ。
そこに、ケラカマキリが襲いかかる。
ルゥイーは空中高く舞い上がろうとしたが、動きが鈍く、捕らえられた。
前足やその他の足で押さえつけ、両側に引っ張ってピンと伸びたルゥイーめがけ、ケラカマキリがその顔状器官の大顎を開き、正確にルゥイーの魔力中枢器官に咬みついた。
(ギャッ……!!)
引っ張られた布状の身体が、見る間に粉々になり、灰燼となって風に飛び散った。
真っ黒い毛皮の塊から昆虫状の多脚が突き出ているようなケラカマキリが、ホーランコルを虚無的に歪んだ複眼で見つめた。
荒い息のホーランコルが、そんな魔獣にむしろ親近感を抱いて見返していると、風下からホーランコルめがけて分銅付の細いロープが飛んだ。
見事にホーランコルの右腕を捕らえ、焦ったホーランコルが踏ん張ったが、もう武術家が高速で接近しながらゆるんだロープを投げ縄めいて操って輪を作り、バランスを崩したホーランコルにスポンとかぶせてぐるぐる巻きにする。
(なんだって……!)
ホーランコルもあまりの早業に驚愕。
武術家、これで、まず強力な剣を封じた。
あとは、ホーランコルなどいつでも殺せる。
武術家は次に、眼にもとまらぬ速さでケラカマキリめがけて呪符を投げナイフめいた道具で打ちつけた。飛刀だ。のけぞったケラカマキリがマヒしたように、動かなくなった
その呪符は、武術家が対魔物戦のためにあらかじめ買っておいた魔封符だ。効果は一時的だが、目的はこんな魔獣ではない。一時的に動きが止まればそれでいい。
軽身功で風のごとく走り、秘術の行使中で無防備のキレットとネルベェーンに接近した。
が、直掩の魔獣が1体なわけがない。
ラネッツ飛竜が上空から武術家に襲いかかった。
武術家が気配を察知して転身し、いったん離れる。着地し、巨大な翼を畳んだ飛竜が四つ足で執拗に武術家に迫った。武術家が、腰の後ろに装備している幅の広い片手刀……柳葉刀を出した。それを、一足飛びで飛竜の細い首に叩きつけた。その強力な一打で、竜の首が一撃で飛んだ。
もう、荒野ネズミがホーランコルを戒める太い紐を齧り切っていたし、魔獣も封魔呪符を魔力で焼き払っていた。
「!!」
ホーランコルと魔獣が、想定よりかなり速く復活したので、武術家も少し驚く。
生身のホーランコルだけでは、この熟達した殺人スキルを持つ武術家に勝つのは難しい。
しかし、いま、ホーランコルは全身に勇者級の魔法の道具を装備している。ルートヴァンがヴィヒヴァルン王宮の宝物庫からそれとなく選んだものにくわえ、ノロマンドルやチィコーザでも見繕ってもらい受け、惜しみなくホーランコルに与えていたのだ。
いま、ホーランコルの装備している各種の戦闘用アイテムが強敵に遭遇し、全自動で次々に威力を発揮する。勇者のパーティが各種の攻撃力・防御力付与魔術を何重にもかけまくるのに匹敵する……いや、それ以上の効果を、アイテムが補完する。しかも、魔法は効果が短いが、アイテムは持続時間が桁違いに長い。
対魔法・対物理防御効果+50の魔法のバックル、攻撃力+50の指輪、対魔法防御+50の薄板金の胸当鎧、それらの効果を倍増させる御守りの、チョーカーの部分がさらに倍率ドンする強力なネックレスになっている。準高速魔法に匹敵する効果を出す魔法のブーツに、必殺の自動遠隔操作浮遊武器である魔法のダガーが6本だ。
じっさいホーランコルにも効果が具体的にどうなっているのかもうよくわかっていないのだが、攻撃力付与が(80+50)×4で+520(剣以外は+200)、対魔法効果は同様に(160+50)×4で+840、物理的な防御力が50×4で+200、対魔法防御(魔物の攻撃にも有効)が(50+50)×4で+400である。
それに準高速化魔法に、魔法のオールレンジ攻撃ダガー6本、しかもそのダガーは全て攻撃力+20効果がついているので、1本が(20+50)×4で+280になっているのだ!!
「こいつ……!!」




