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第15章「嘆きと大地の歌」 1-13 どうしようもない

 バーレで冒険者をするのは、ほぼ放浪武術家と放浪道士に限られる。その武術家と道士の中で、それぞれ得意な分野があり細分化されるが、帝国東方で認識される職能クラスとしては、その2つだ。


 というわけで、この冒険者一行は腕利きの武術家が3人(専門はつるぎ、大刀、槍)と、道士が3人(巫術師(回復系)、呪符使い、幻術師)だった。なお、道士の中には武術の修行を積み武術家を兼ねている者も多いし、また、実際には冒険者ではない武術家や道士のほうが多い。武術というのは暮らしに余裕のある者が趣味でやるか兵士が習うもので、武術で食ってゆくものはその師匠が普通である。道士は、妖怪退治ばかりやっているのではなく、冠婚葬祭を執り仕切り、森羅万象を占い、神に祈り魔を祓う。東方でいう神聖魔術師(神官)と魔術師を合わせたようなものだった。


 従って、冒険者などという一攫千金を狙った放浪者というのは、バーレを含む西方では、一般的に無頼の輩というイメージが強い。


 その6人は、組織による囮だった。本命は、さらに高額で暗殺を請け負った組織の放った暗殺者集団だった。西方から迫っていた2組は、その2組だった。


 暗殺者集団のほうも、既にキレットとネルベェーンの放ったネズミたちに発見されているのだ。


 忽然と周囲にざわめく・・・・動物の気配が、明らかに敵意に変わってきて、さすがに勘の鋭い武術家と道士、何かがおかしいと気づく。


 だが、これが目指す目標の迎撃であるとは、さすがに思わなかった。バーレ王国……いや、帝国では、個人的に魔物や魔獣を操る術者はいるが、それが体系的な魔術として確立し、魔獣使いという専門職がいるまでではなかったし、ましてこんな大規模な広範囲攻撃など想像もつかない。


 「おい、様子がおかしいぞ!」


 これまでは、この広大な空に1~2頭の飛竜がたまに飛んでいるほどで、警戒もしなかったが、気がつけば死体に群がるカラスやハゲワシがごとく天空一面にギャアギャアと翼長が8メートルはある怪物が集まっているのだから、驚きもする。


 そして、足元には、

 「……うわっ!」

 気づけば、地面をびっしりとモルモットほどの巨大ネズミが埋めつくしている。

 何匹いるのかも、にわかに判断がつかなかった。


 「敵の攻撃だ!!」

 「まさか……!」

 「じゃあ、なんなんだよ、これは!?」

 流石の武術家や道士らも肝を冷やした。

 「こんなネズミなんか、蹴散らせばいいだろうが!」


 大柄な槍使いがその朱色の大槍で群がる荒野ネズミたちを薙ぎ払い、また一撃で敵の足をへし折るような低い蹴りで文字通り蹴散らした。


 何匹かの哀れなネズミが即死したが、それが合図となった。

 意思を持った群体めいて、ネズミが波のようにその槍使いに殺到した。

 「……!!」


 悲鳴にもならぬ声を発し、顔面や素手も含めた装備の隙間という隙間を鋭い門歯に齧られて、ヨロメキながら槍使いは槍も離して懸命に群がるネズミを振り払った。


 仲間たちは半ば呆然とその光景を観ていたが、

 「……った、助けろ!」


 武術というのは、原則、対人相手だ。人が見えなくなるほど群がるネズミなど、いくら剣や刀を振り回そうが、何匹かが死ぬだけで、どうしようもない。


 たちまち、仲間の武術家2人にも荒野ネズミが襲いかかった。魔法の防具に歯はたたないが、防具の隙間から入った肉体には歯が立つ。肉体強化の術をかける暇もない。


 「うぁアアああああ!!」

 「火だ! 火だ! 俺たちごと火をかけろおおッ!!」


 云われ、呪符使いがその手に火炎符を出したところで、上空から体当たりぎみに飛竜が襲いかかった。細い飛竜に人を持ち上げるパワーは無いが、その足の鉤爪は容易に人体を引き裂く。外套や道士服も破かれ、血を振りまいて道士がよろめいた。


 そこに、ネズミの群れに紛れていた、四つ足で狼竜ベゲットにも似たラネッツ地竜が数頭、踊りかかった。


 小型の竜とはいえ、体長が2メートル以上ある。ライオンめいたワニというか、恐竜というか。


 道士は首元の急所を咬まれ、喉が裂け首が折れて絶命したところを、3頭が同時に手足や腹に咬みつき、引っ張りあって胴から引きちぎれた。


 残った道士は、回復系と幻術師だ。幻術は奇門遁甲の一種で、荒野で敵を幻惑する。そのため、今回の冒険に加わった。陣を展開する前に襲われては、意味がない。


 たまらず幻術師、仲間を見捨て、自らに術をかける。荒野に突然、大岩が現れ、その中に潜んだ。幻術だが、触れるし、触っても岩そのものだ。

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