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第15章「嘆きと大地の歌」 1-11 寄生虫にふさわしい姿

 それは、魔導都市国家マーラルの魔導組織「無何有ミレド」の生き残りで、かつ魔薬の無何有ミレドを復活させようとしている組織だった。


 (なれば……!)


 ルートヴァンが、周囲の空間まで魔力の根を張り始める。が、本来、位相空間は果てしない。平行世界パラレルワールドは、理論上無限であった。


 ストラは、テトラパウケナティス構造体理論による疑似光子コンピューターでその空間制御を力任せに行っているが、この魔法世界の人びとは経験と勘で行っている。


 ルートヴァンは巨大魔力から熱を取りだし、高出力ビームライフルめいて、激しく空中を移動しながら魔物に向けて放ちつつ、次元攪乱で攻撃を避け続ける魔物の周辺空間にひたすら根を張った。


 魔物が立体的に展開した目に見えない網を高速で移動しながら、時にジャンプし、ルートヴァンの攻撃を避け、しかも絶妙に位相空間転移をくり返してルートヴァンに接近した。


 (埒があかないな……!)

 ルートヴァン、あえて隙を見せて、魔物を誘いこんだ。

 (乗ってくるか?)


 魔物というより、魔族がこの魔力の根に気づいていれば、けして乗ってこないはずだった。しかし、ただでさえ位相空間移動を繰り返し、無限にすり抜けられている。根に魔物が触らないのであれば、魔物にも根は見えないし感じていないはずだった。


 ルートヴァン、熱線が打ち止めになったように演じ、あえてもたついて隙を作った。


 それを好機と、魔物が位相空間より出て一気にルートヴァンめがけて襲いかかった。


 それは、蜘蛛が獲物を襲う本能のようなものだった。


 巨大な魔物が、ルートヴァンが周囲に張りめぐらせていた魔力の根の網にかかった。


 たちまちからめとられ、動けなくなる。転移もこれで封じる。

 「フ……」

 ほくそ笑んだルートヴァンが、特大の熱線を叩きつけた。


 その熱線を、なんと至近距離で防いだものがいた。これは空間転移ではなく、純粋に魔力のバリアだ。


 「本命の本命が、ついに御登場かね」


 魔物に寄生してた魔族が、魔物の3つの首の一つの耳から、にょろり・・・・と姿を現していた。


 「寄生虫にふさわしい姿ではないか」

 「……」


 蛇に細い手がついているようなひょろっちい・・・・・・姿に眼玉だけギョロリと大きな魔族が、その眼でルートヴァンを睨みつけ、挑発には乗らなかった。


 (というか、言葉が通じているのか?)


 だが、この魔力だ。黄色やそこらのシンバルベリルを有していてもおかしくない。ルートヴァンは、気と攻撃を緩めなかった。


 「無何有ミレドの残党ごときが、異次元魔王様に楯突くとは笑止千万だ!!」


 ルートヴァン、高エネルギー攻撃では効果が無いのであれば、と、魔力凝縮法で疑似物質を造り、高速回転する巨大な立体ミキサーの刃を叩きつけた。


 「……!!」

 これには、さすがの魔族も仰天。


 まさか人間がこれほどの魔力を使うとは、思っていなかった。完全に準魔王級だ。


 まず先ほどよりずっとぶ厚いバリアを展開し、ミキサーがそれをガリガリに砕き削り進むのを尻目に、強引に魔力の根を引きちぎって位相空間に逃げようとしたが、


 「無駄だ」


 ならば自分だけでもと、魔族は魔物の耳から抜け出し、根と根の隙間に逃げこんだ。


 「それも無駄だ」


 巨大ミキサーの豪快な魔力と、ウナギめいて魔力の根の合間を逃げようとする魔族を捕らえるほどの繊細な魔力を同時に制御したルートヴァンが、魔族を捕らえて空間に貼りつける。まるで、粘着シートに引っかかったミミズだった。


 もう、空間ごと粉々に砕け、魔族と魔物が消滅した。

 「フン」

 ルートヴァンが鼻を鳴らし、空中から西方を睨みつけた。

 (バーレ……無何有ミレドか……!)


 幻の消滅都市マーラルを片付けた後は、バーレ王国の秘密結社である魔導組織が当面の敵となるだろうことを確信して。


 と、ふと地上を見やると、裏勇者たちが7体の魔物のうち3体をなんとか倒したが、残る4体に苦戦しているのが見えた。


 「クソッ!! 意外につえぇな!!」

 勇者がうそぶくが、戦士2人が欠けているのが大きい。


 小型と云っても彼らの概念では6人乗りの大型馬車くらいの大きさはあるし、魔物なので魔法武器や魔術に耐性もある。中級冒険者では1体でも相手をするのは不可能で、勇者級でも3~4体が限度だろう。7体は、無茶ぶりにもほどがあった。

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