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第15章「嘆きと大地の歌」 1-10 野良の魔物や魔族ではない

 裏勇者が、なんとも云えない顔つきで座ったまま2人を見比べ、最後に相棒の魔法戦士と顔を見合わせた。


 「さて……そうとなったら、とっとと逃げたほうがいい。実は、僕の本命は、君たちじゃないものでね……」


 「……どういうことだ!?」

 仲間を立たせていた裏勇者、眼をむいて叫んだ。

 「ほかに敵が!?」

 「そうなるな」

 ルートヴァンがもう杖を軽く掲げて、注意を周囲に向けている。


 「まさか……オレたちは囮にされてたってえのか!?」

 「さすがに察しがいいな。もしくは、露払いか……」

 「なん……!」

 怒りと同時に、衝撃に裏勇者が震えた。

 自分らを露払いにするほどの本命が、迫っているという事実に。


 「まさか・・・……」

 「その、まさか・・・だろうね。いま、この荒野には魔族がウヨウヨいる」

 「魔族だと……!!」


 流石の裏勇者も、魔族とやりあうことは滅多に無い。魔物はけっこういるが、魔族となると激レアだ。本来、魔族というのはそういう・・・・存在なのだ。


 「急げ、脱出だ! ほら、立て! 逃げるぞ!」

 裏勇者がまだ放心している魔術師の1人を急かしていると、

 「……少し、遅かったようだ」


 ルートヴァンがそう云い、分かりやすく冬の大地が盛り上がって崩れ、カニとクモを合わせたような真っ黒い身体に巨大な鬼面が3つのバケモノが現れた。それがまた異様に大きく、2階建ての家ほどもある。


 「こいつは……!」


 裏勇者たちも、息を飲む。全身から濃厚な魔力が重油めいて滴り落ち、触れただけで一般の人間なら即死するだろう。こんなバケモノは、なかなか御眼にかかれない。


 しかも、気がつけば、自動車ほどの大きさの、その子供のような同じ姿の魔物が周囲にボコボコと土を割って現れていた。


 だが、これら・・・は魔物だ。魔族ではない。この大小の魔物どもを支配している魔族が、まだどこかにいる。


 ルートヴァンがすかさずその魔族を探知し、

 「隠れていようが無駄だ、姿を見せろ」

 だが、魔族は現れなかった。

 「フ……まあいい、どうせともども・・・・討ち滅ぼすだけだ……!!」


 ルートヴァンが魔力を高める。ヴィヒヴァルン王宮の地下深くに鎮座する、赤シンバルベリルと合魔魂テルミルを果たした父王太子に接続・・し、魔王級の魔力の供給が始まる。


 「殿下・・ァ! 自分の身は自分で護ります! どうぞ御構い無く!!」


 裏勇者が剣を構え、叫んだ。魔法戦士も剣を拾いあげ、学院先輩の魔術師と、やっと我に返ったもう1人の魔術師も、急いで魔力を高めた。


 「そうか。では、遠慮なくやらせてもらうとしよう。巻き添えを喰うなよ!」


 云うが、ルートヴァンが飛翔魔法でその場を離れ、同時に魔力を全開放。とんでもない魔力量と魔力圧で、しかもそれを術式を通さずに直接行使。この時点で、ルートヴァンは魔法使いを超えている。上級魔族と同等だ。


 「ゲエッ……!」


 そんな危険なヤツ・・・・・に挑んでいたのか……と裏勇者たちが驚く間もなく、7体ほどの小型の魔物が一斉に裏勇者たちに襲いかかった。


 「舐めるなア!!」


 そこは駆逐勇者、戦士2人が減っているが、凄まじい戦闘力を発揮する。まだ攻撃力・防御力付与魔法の効果も持続していた。


 大型の本命が空中に魔力の網を張り、そこを本当にクモのように歩いて、すごい速さでルートヴァンを追った。


 「この魔力差を見ても諦めないのは、勇気ではなく無謀だな! いや……愚行か!」


 ギラリ、とルートヴァンが引きつった笑みを見せ、凝縮した魔力から直接大火力を引き出した。まるで帰化爆弾めいた超爆発が魔物を襲ったが、魔物は空間制御で実体をほんの僅かに亜空間へ逃がし、爆轟を無力化した。


 (なんだって!)

 内心、ルートヴァンが驚いた。そこらの魔物にできる藝ではない

 (そうか……これが魔族の能力ちからか!?)


 未だ姿を見せないが、魔物と・・・一緒にいる・・・・・魔族が空間を制御して敵の攻撃を無効化し、魔物が攻撃を担当するのだろう。


 「見事な連携とは恐れ入る! 貴様ら、野良の魔物や魔族ではあるまい!?」


 すなわち、ストラやルートヴァンに多額の賞金をかけたバクス公が、その魔族まで雇っているわけだが、雇い先がバーレ王国の闇の魔導組織であることに、ルートヴァンはうすうす気づいたのだ。

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