第15章「嘆きと大地の歌」 1-8 舐めプ
身体を真半身……真横にしながら両腕を上げ、鉄棒にぶら下がるかのような両手持ちで、それを真横になったまま斜めに下げて構えた杖先を相手の水月(鳩尾の下あたり)に突きたて、つっかえ棒めいて攻撃を防ぐ。いや、防ぐどころか、副勇者の魔法戦士は自分が突っこんだ勢いと、ルートヴァンが杖先にこめた魔力の威力とのダブル衝撃が防御力+130もの軽装甲を貫き、息も止まって硬直した。
そこに横から勇者が魔法剣に攻撃力付与でトータル+180にもなる、人を相手にするには過剰攻撃にもほどがある威力の剣撃を鈍角な袈裟切りっぽい横殴りに食らわせた。
ルートヴァンは自身も超高速化をかけており、前足で地面を蹴って一瞬で下がってその攻撃をかわすや、すぐさま後ろ足で地を蹴って前に出て杖先をそのまま勇者の顔面にめがけて突き立てた。杖先には槍のように魔力がこもっており、顔面を貫く威力がある。
「…!!」
裏勇者もさすがに凄腕、その攻撃をぎりぎり食らわずに、仰け反ってなんとか避ける。
が、避けさせるのがルートヴァンの狙いだ。
ルートヴァンはすかさず杖を八相に構え直し、体勢が崩れ、腕を伸ばしたまま硬直している勇者の剣を持つ右腕めがけて杖を振り下ろし、叩き折った。
「ガァアッ!」
しかし、防御魔法が働き、腕は折れなかった。剣も落とすことなく、激痛が走る程度だったが、たまらず勇者が下がった。
そこに、タイミングを計っていた魔法使いたちの定番攻撃、魔法の矢8連発が炸裂!!
するも、反射魔法が既に働いており、全て魔法使いたちに跳ね返った。
(ゲッ…!!)
魂消た2人の魔法使い、あわてて相殺。あるいはバリアで防いだ。
これでは、うかつに強力な魔法は使えない。魔法使いたちは、戦士達の補佐に専念することにした。
そこで、背後に回りこんでいた屈強な戦士2人が、1人は猛悪的な炎を噴き上げる魔法剣、1人は魔法効果を打ち消す特殊効果のあるメイスでルートヴァンに襲いかかった。この連携は、派手な炎の攻撃で敵を幻惑しつつ、本命はメイスの魔法効果破壊だ。これでルートヴァンの魔法防御や高速化魔法、いまの反射魔法、さらには攻撃力付与魔法などをバキバキに割り壊してゆく。
だが、それも一般的な魔術師に対しての話であった……。
上級魔族に匹敵するルートヴァンの魔力と、鋼鉄めいて固い術式に、+70程度の魔法の武器は、通常武器に毛が生えたていどの威力しか発揮しない。
ガイン!! という、分厚い鉄の板でもぶっ叩いたような感触に、メイスを持った戦士は驚愕した。いかな魔法のバリアでも、一撃でガラスを割るがごとく破壊してきた。
(なにが……!?)
と、思ったときには、ルートヴァンが思考行使で巨大な炎柱をぶちかましていた。
あまりに巨大なので、火炎剣を持った戦士と2人、同時に炎に巻かれる。
まるで大火災現場の火炎旋風のような巨大な炎の竜巻に、2人が焼かれながら空中高く舞い上がった。
「うぉおおおッ!!」
勇者たちもあまりの熱波にひるみ、下がった。
(た、対魔法防御を5重にかけてこれか……!!)
数千度はあるだろう。
それほどの大火力だ。
人間など、短時間で消し炭に……いや、真っ白い灰になる。
戦士2人は、どうやっても助かるまい。
「きっ、貴様、本当に人間か!?」
裏勇者が叫び、逆巻く炎の柱を背に振り返ってルートヴァン、口元を不敵な笑みでゆがめて、
「僕ごときで驚いてたら、魔王様が出てきたらどうするのだ?」
魔王にしたって、ストラは別格中の別格だ。
(ま……魔王……!!)
彼らはいわゆる「魔王退治」とは無縁の勇者集団だったが、
「魔王など、退治しようと思えばいつでもできる! ただ、俺らにとって、そうする必要がないだけだ」
などと嘯くほどには、勇者としての自負があった。
今回も、魔王というよりけた違いの賞金首としてと、暗殺対象としてむしろ魔王の側近を減らす仕事を請け負ったのだ。
いざ魔王が出てきたら、逃げる自信もあった。
それが……。
(ヴィヒヴァルンの王子……これが……!!)
舐めていた。舐めきっていた。いかな天才魔術師と云えど、学校の成績と実戦は天と地ほどの差がある。それを教えてやる、と思っていた。逆に、超絶天才と凡百の差を思い知らされた。代償は、己の命だ。
「ク…!!」




