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第15章「嘆きと大地の歌」 1-7 裏勇者

 (だめだ、こりゃ……!)

 頭目がものも云わずに、馬を駆って逃げ出した。

 「あっ、御頭……!」

 「……待って……!」


 馬上にいる14人が、頭目に続いて一目散にその場を去った。馬から落ちてまだ生きている者もいたが、衝撃や骨折で動けない。本能か、馬が人を乗せずに仲間について行ってしまったし、この真冬の荒野で死ぬのを待つだけだ。


 「なんでえええ、よっええなああ。もう終わりかよお」


 急に興醒めしたピオラが、巨斧を地面に突き立て、まだ身体にからまる鎖を外し始めた。



 次に、ルートヴァンである。既に、魔族の気配はつかんでいる。


 (誰だか知らないが、魔族まで使って……なりふり・・・・かまっていないということか)


 ルートヴァンが、1人でおかしくて笑い出した。

 (僕らや聖下が、そこまで恨みを買っていたとは、な。ま、無理もないが……)


 こんな無人の荒野なので、ルートヴァンは遠慮なく短距離転送魔法をかけ、すぐさま後方より迫っていた6人組に接触した。


 「な、何だ!?」


 いきなり曇天で極寒の荒野を黙々と進む6人組の眼前に現れたその魔法使いルートヴァンは、身なりこそチィコーザの最高級の毛皮のフード付コートを着こんでいるが、白木の杖に、精悍だが細い貴族的な顔の半分がフードから覗いているだけだった。


 それだけで、6人組の中の1人が前に出て、

 「さては、おまえがヴィヒヴァルンの王子か?」


 引退して闇落ちした元勇者というより、現役の裏勇者といえた。すかさず、+100もの強力な魔法剣を抜き、無言で仲間がルートヴァンを囲うように展開した。見た感じ、勇者は30代、仲間は20代後半から40代。全員男。勇者、副勇者の魔法戦士、戦士、戦士、魔法使い、魔法使いだ。探索をするパーティではない。完全に依頼された敵を倒すだけの、傭兵・駆逐型だ。ルートヴァンに逆奇襲をかけられたかっこうだったが、動揺もせずに、すぐさま魔法使いたちが思考行使でありったけの攻撃力、防御力付与魔術を仲間にかけまくっている。素晴らしい連携だった。相当な実力がある。


 「魔王様一行と知って、後をつけてきていたのか?」

 不敵な笑みだけを見せて、ルートヴァンがそう云った。

 「余裕だな。こっちの時間を稼いでくれるのかい」


 無精ひげが渋く端整だが、眼が金と殺しに澱んでいる裏勇者も、不敵な笑みを見せた。


 「全力のほうが、あんたたちも心置きなく死ねるだろう」


 「よく云う……流石だな。あんた、自分にいくら賞金がかかっているのか、知っているか?」


 「知らないね」

 「3000万トンプだ」

 「ほう……」

 そう云われても、ルートヴァンはそれが高いのか安いのか分からなかった。

 「ちなみに、聖下……魔王様は、いくらなのだ?」

 「3億トンプ!」

 「ふうん……」

 さすがにそれは、多いと思った。

 とはいえ、魔王だ。


 魔王を倒せば、何十億、何百億トンプもの財宝が手に入るというのは、伝説かつ定説だ。


 それに比べれば……という感じだった。

 「個人では、これが限界か。いや、限界を超えて、それか」

  それは、ルートヴァンもいまだ知らぬバクス公爵のことだ。


 「そんなことは、知ったこっちゃないんだよ、こっちは。お前を殺してもいいし、生け捕りにして、ヴィヒヴァルン王から身代金をとってもいい」


 ルートヴァン、これには失笑して、にやけたまま、

 「いや失敬、自信を持つというのは、大事なことだ」

 「あんたは、自信過剰が過ぎるようだな」

 「そうかい?」

 「そうだよ!!」


 勇者と魔法戦士が、超高速行動ハイ・マニューバに近い超高速化魔法により、至近距離から目にもとまらぬ連携攻撃を見せる。いくら強力な魔法使いでも、この距離でこの超高速に対応できる者は、ほとんどいない。


 が、ルートヴァンは対抗できるその激レアな存在だった。


 既にルートヴァンも、モップの柄みたいな白木の杖に、強靭化の魔法をかけている。


 さらに、ルートヴァンは近接戦闘用のアーレグ流スタッフ術の免許皆伝だ。中級クラスなら、魔族とすら近接戦でやりあえる。いや……それはもはや、アーレグ流杖術と魔法を組み合わせた、ルートヴァン流の魔法杖術と云えた。

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