第15章「嘆きと大地の歌」 1-6 人間ハンマー
それでも、ピオラは一切の手を抜かぬ。
全力で、鏖にする。
鏖殺だ。
「うグぅるァああああああ!!!!」
独特の巻き舌で雄叫びを上げ、多刃戦斧を片手で振りかざして吶喊した。
馬より速い。
見る間に賞金稼ぎたちに迫った。
ただ、眼は泉色のままであり、さすがに重戦闘モードではない。
「来やあがったぞ!!」
頭目が叫び、にわかに戦闘態勢を整えたが、もうピオラが会敵している。
草食獣の群れに至近距離から突っこんだ肉食獣めいて、ピオラが大ジャンプで多刃戦斧を振りかざし、そのまま1人に叩きつける。馬が胴体ごと真っ二つになり、乗っていた魔法使いは顔面からぐしゃぐしゃに砕け潰れ、叩き割られた。
「囲め、囲めえ!!」
だが、さすがに名うての賞金稼ぎ集団、仲間の犠牲も顧みず、対火竜用の包囲陣を展開する。
こやつらは、人間の賞金首も狙うが、云わば魔獣狩りの専門集団だった。
アッという間に馬でピオラを取り囲み、魔法で強化された、竜をも取り押さえる鎖分銅が幾重にも飛ぶ。
これはただ頑丈なだけではなく、電撃を発して弱らせ、さらに特殊な魔法効果で、雁字搦めにした相手の体力を奪う。
全長10メートルはある火竜といえど、子牛を捕らえるかの如く弱らせる。
(ちなみに、火竜の場合は魔術師が耐火魔法防御などを併用する。)
その太い鋼鉄の鎖がピオラの首、多刃戦斧と右腕、腰のあたりの胴体に巻きつき、すかさず馬たちが回って鎖をピオラに巻きつけた。
が、相手は竜ではない。
人型生物だ。
「なんだあ、こんなものあぁああ!!」
何とピオラ、踏ん張るどころかジャンプして地面に倒れこんだ。体重と、多刃戦斧の重さ、さらに勢いで鎖が引っ張られ、鎖を持つ4人のハンターのうち2人が虚を突かれて馬から転げ落ち、冷たい地面にはねた。
ピオラがすかさずバウンドするように腹筋だけで起き上がり、自ら逆回転して鎖を緩め、さらに左手で引っ張りこんだ。すると、馬から落ちた1人が立ち上がりかけていた姿勢から前のめりに倒れ臥した。
そこをピオラが、
「ウォラァアアアア!!」
豪快に鎖を振り回したものだから、手に鎖が絡んだそやつがこれまた豪快に宙を回転し、そのまま馬上の仲間にぶち当たって、2人して冷たい地面に転がり落ちた。
「なんてヤツだ!!」
頭目も仰天する。さすがに、竜やそこらの魔獣とは勝手が違った。
(鎖の効果は、どうなってやがる!?)
効果はあるのだが、ピオラの体力が火竜以上なのか、それとも体力を奪いきるのに時間がかかるのか。しかも、電撃はオネランノタルの魔力ローブマントによる対魔法効果で、電気マッサージ程度にしか効いていなかった。
「オッしゃあああオルぅああああアアアア!!!!」
ピオラがむしろ楽し気に、左手でさらに鎖を振り回す。まるで、人間ハンマーだった。回されるほうは、たまったものではない。手を離せばよいと思うかもしれないが、愚かなことにガッチリと鎖を拳に絡ませて握っていたので、離しようがない。次々に馬や馬上の仲間に衝突し、
「ギャァ!」
「避けろ、避けろ!」
「新しい鎖を!」
「魔法援護なにやって……!」
そう云いかけた1人に向かって横殴りに人間が叩きつけられ、ぶっ飛ばされて馬から転げ落ち、どこかを骨折してうめいた。なお、鎖を握ったまま、人間ハンマーは脊椎や肋骨がバラバラに骨折し、血を噴き巻いてもう死んでいる。
「殺せ!! 白トロールを殺せ!!」
「魔法攻撃だ!」
3人残っている魔術師が、至近距離からいっせいに魔法の矢を放った。1人3発、合計で9発だ。並のトロールならこれでゲームオーバーだが、ピオラが人間ハンマーと多刃戦斧を素早く振りかざし、9発中7発を防いだ。残り2発は魔力マントで防ぐ間もなく、まともに食らったが、
「クッソ!! いってええなああ!!」
怒りに火を注いだだけに終わった。
なお、魔法の矢5連発の直撃を受けた人間ハンマーは大口径のライフル銃で撃たれたかのごとく血肉をぶちまけて砕け、腕だけになった。




