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第15章「嘆きと大地の歌」 1-5 賞金稼ぎ

 「では、明日から作戦開始だ」

 一同が、酒や湯などの飲み物を掲げあった。

 


 近場から見ていこう。


 ルートヴァンの命を受けたピオラが、まっすぐ北に向かった。躍動する乳白色の肉体が、雪と茶色い大地に交じって完全に迷彩効果を発揮している。


 大型の毛長馬リャドフに乗ってホルストンから荒野に入った賞金稼ぎども、街道をはずれ、ストラたちに向けて驀進していたが、ピオラの接近に全く気付かなかった。


 ところで、この広大な荒野で、魔王とはいえ徒歩で進む一行の足取りをつかむのは、容易なことではない。


 バクス公は、バーレ王国の裏社会に手をまわし、偵察専門の魔族を雇っていた。

 見た目は、6枚のトンボのような薄羽と1つ目の化け物だった。


 荒野のはるか上方で空中に制したまま、その巨大な「眼」で物理的にストラたちを捕らえ、また魔力感知でオネランノタルやルートヴァン、ピオラの同行を把握していた。


 その役割と性能は、まさに軍事偵察衛星だった。


 これまでも、この偵察魔族と地上要員の魔物や間者たちが、異次元魔王一行の動向を把握してきた。


 偵察魔族の放った連絡用の魔蟲まむしが、荒野に散らばる各魔族や賞金稼ぎを含む襲撃者たちに、逐一位置情報を教えていた。


 「止まれ! 止まれ!」

 賞金稼ぎの頭目リーダーが、皆を止めた。

 「御頭! どうしました!」

 「白トロールの女が、1人でこっちに向かってきているらしい」

 「オレたちの襲撃を、感づきやがったっていうんですかい?」

 「そうなるな」

 寒風の中、一行が顔を見合わせた。


 なお、こいつら・・・・は単に多額の賞金目当ての襲撃者で、自分たちが魔王一行を襲っているなどと夢にも思っていない。バクス公が、目標が魔王だということを一部の者には隠しているからだ。いくら高額賞金首でも、魔王だと知られたら怖気おじけづく連中も多いだろう。


 つまり、彼らは捨て駒の露払いなのだった。

 魔王の仲間を1人でも減らせば、それはそれで復讐の一環というわけである。

 「でも御頭あ、1人なんでしょ? 返り討ちにしてしまいましょうや!」

 「白トロールは、いくら・・・だ?」


 頭目が確認し、

 「700万トンプです!」

 一般的な高額賞金首より、ケタが2つ違う。

 破格中の破格だった。


 ちなみにルートヴァンが3000万トンプ、ストラは3億トンプだった。

 公爵家が、一発で破産してもおかしくない額だ。

 息子たちが、国王に直訴するだけあった。


 賞金稼ぎ達にしても、ピオラだけで、これで足を洗って商売でもやろうかと思わせるほどの額だった。


 人生を変えるほどの額なのだ。

 「御頭、ここは白トロールだけでも……」


 「そうだな。それにトロールの肉や骨、生皮は、バーレで高く売れるらしいぞ!」


 「生首も剝製にして売りつけましょうや!」

 賞金稼ぎ達が、楽しげに笑った。


 彼らは冒険者や盗賊団とは違うが、魔術師や戦士もおり、似たような者たちだ。じっさい、地方では殺しに誘拐、略奪の限りと、夜盗凶賊まがいのことも平気でやる。


 そこに、寒風を引き裂きながら、重い音を立てて飛来する物体があった。

 高速で回転しつつ、大きく弧を描いて、賞金稼ぎたちに迫った。

 云わずと知れた、重さ300キロ近い鋼鉄の多刃戦斧である。

 それだけで恐るべき質量武器だが、魔法効果もある。


 30人の集団が固まっておらず、そこそこ一定間隔でばらけていたせいというかおかげというか、初撃の犠牲は最小限だった。多刃戦斧は馬上の3人をトマトでも潰すように粉砕し、1人の腕をかすめて一直線にピオラに戻った。


 かすったとはいえ、その者は右腕の二の腕から肘が砕け、ほとんど引きちぎれて、悲鳴も出ずに衝撃で馬から落ちた。


 「……なんだ!?」

 「御頭あ!!」


 50メートルほど離れた場所に立っているピオラが、戻ってきた多刃戦斧を片手でキャッチして、仁王立ちに立っていた。が、雪原のホッキョクグマよろしく、賞金稼ぎたちはにわかに判別できなかった。


 ガフ=シュ=インで、数百人の騎馬武者と軍事国家の屈強な兵士を紙人形でも引きちぎるがごとく殲滅したピオラにとって、こんな賊にも等しい集団など、ラジオ体操より朝飯前だ。

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