第15章「嘆きと大地の歌」 1-4 無意味な仇討
以後、執拗に異次元魔王一行を追跡し、さすがにゲベロ島からガフ=シュ=インに到った辺りは見失ったが、年が明けてノロマンドルで発見。チィコーザから帝都へ到る間も、動向を把握していた。暗殺などは到底不可能な相手だったので、全財産をかけて異次元魔王にとんでもない額の賞金をかけた。帝都あたりの闇落ち勇者など何の役にも立たないのが分かったため、とくにバーレ王国より異能者や魔族に至るまで強者をかき集めた。そして、荒野に展開させ、いま、罠を張って待ち構えているのだ。
とうぜん、父公爵の様子がおかしく、代々の蓄財や宝物はおろか、土地屋敷を抵当に入れてまで湯水のように金を使っているのを長子と二男は気づいた。それがウェッソンの復讐であることを知り、驚愕した。どれほど諫めても公爵は聴く耳をもたず、特に厳しく父公を諫めた二男は烈火のごとく怒った公により公爵家騎士団長を解任され、なんと離れに幽閉された。驚いた長子が密かに国王に進言し、国王から使者も出たのだが……。
「これは異なことを!! 正統な復讐と仇討に御座る! 国王陛下であっても、それを止める権限はありませぬ!!」
目の色を変えて正論を吐きつけ、国王を黙らせた。
日本であれば、子は親の、臣下は殿様の仇を討てるが、親は子の、殿さまは家臣の仇を討つことはできない。仇討とは目下が行うもので、目上の者は行えない。そういう制度なのだ。が、帝国では恋人だろうが愛人だろうが、家臣だろうが、誰の仇でも討てた。
賢明なる読者諸氏は、つまるところ、バクス公家は親子そろって無意味な仇討により滅亡の憂き目を見るということに御気づきだろう……。
だが、それも運命というものだ。
2日後であった。
キレットとネルベェーンの魔獣が四方八方に荒野を走り、何組かのパーティーを見つけた。異次元魔王一行を待ち伏せ、あるいは奇襲する雇われどもだ。
「如何致します、殿下」
「こんな場所にまで出張って僕らを待ち伏せているとは、とんだ酔狂だ。相手をしてやらないと、可哀そうだな」
風よけ魔術の中の野営でルートヴァンがそう云ったが、
(ちょうどいいヒマつぶしができて、ルーテルの旦那、めちゃくちゃ楽しそうでやんす)
堅パンをかじりながら、プランタンタンが呆れるように眉根をひそめて薄緑の目を細くした。
「キレット、どの方角に、何組いるのだ?」
キレットが大まかな方角と、賞金稼ぎ一行の陣容を説明した。近場では、行く手を阻むように西側に2組、後を追うように東側に1組、北側から南下するように接近してきている1組の、合計4組だった。
「ちょっと手強そうなのは、北側から接近してきている1組です。組というより、軍団でしょう。30人くらいいます」
「冒険者ではなさそうな。盗賊団か?」
「会話からすると、賞金稼ぎのようです」
「なんと、では、何者かが我らに多額の賞金をかけたのか!」
ルートヴァンが目を丸くした。
「さすがに、賞金首になった経験はないな!」
「アタシだってねえよ! ルーテルさん、ぜんぶ相手にするのかよ。きりがねえぜ」
フューヴァがそう云い、その横でペートリューが相変わらず帝都で買い付けた焼酎を水筒からガブ飲みしている。
「まあまあ、この寒い中をただ歩いているよりいいだろう? 頼むよ、フューちゃん、この通りだよ」
「しょうがねえなあ」
ルートヴァンにそこまで云われて断るわけにもゆかぬし、断ったところでどうしようもない。フューヴァは諦めて、
「とっとと片付けてくれよ?」
「分かってるよ。……さて、陣分けだ。ピオラに、その賞金稼ぎどもを蹴散らさせよう」
そのピオラは、天幕の外で雪の上に寝転がってくつろいでいる。
「オネランノタル殿は広範囲で魔物や魔族を片端から潰しているし……僕は、東のほうでオネランノタル殿の攻撃を逃れている、ちょっと気になるでかいのを潰しておく。ホーランコル」
「ハッ」
「キレット、ネルベェーンと共に、西側の2組を任せる。勇者級かもしれんが……できるか?」
「御ふたりの、恐るべき魔獣の力を借りれば!」
ホーランコルが2人の魔獣使いと顔を合わせ、不敵な笑みと共に3人でうなずいた。
「よし、では決まりだ。3人はスーちゃんを頼むよ。なに、偵察では、直接襲ってくるような敵は見当たらない」
「来たって、逃げるだけでやんす」
「ちげえねえ」
2人が笑い、話を聴いていなかったペートリューもつきあって引きつったような愛想笑いを浮かべた。




