第15章「嘆きと大地の歌」 1-2 アホがまだいる
「ストラがいる限り、何がどうなろうと、どうとでもなる」
とくにプランタンタン、ペートリュー、フューヴァの3人は、そう確信していたし、じっさいそうなっていた。
もっとも、ここしばらくそのストラの調子が悪いのだけが気がかりだったが……。
「気のせいか、ストラの旦那の妙な動きや口走りが、減ってるように思えるでやんす」
プランタンのその言葉に、フューヴァもうなずいた。
ゲベロ島で被った大規模プログラムエラーは、数か月をかけてちまちまと自己修復し、今現在復旧率86%である。
あと少しだった。
90%を超えると、最終シークエンスに進み、特段の手戻りが無い場合は、一気に完了する見こみだった。
また、85%を超えると、常時走らせている待機潜伏モードの各種プログラムがかなり復活する。
現在は、半径5キロほどの三次元探査が行われていた。普段は数十キロ単位で行われているものだが、いま、低出力の試行モードが復活している。また、テトラパウケナティス構造体分離方式による疑似地上監視衛星とのリンクも一部復活していた。
「ルーテルさん」
寒風吹きすさぶ中を歩きながら、いつの間にか近寄ってストラがルートヴァンに話しかけた。
「え、あ、ハハッ、如何されましたか、聖下」
「このような状況下で不自然に濃度の高い魔力子……魔力の塊が多数、散見されます。また、我々を探索するように移動を繰り返している集団も複数、確認されています。さらに、帝都圏よりホルストン方面に向かう複数の魔力連絡端子を把握しております」
「え?」
ストラがたまに元に戻るのは把握していたが、いまここで……? という感じだった。が、ルートヴァンはすかさず切り替え、
「……と、云うことは、えー、つまり、何者かが帝都で我らを監視していて、西方に向けて出発したことをホルストンに報告を……そして、それをもって我らに敵対する救いようのない愚者が、この荒野で我らを待ち受けている……と」
「その可能性が高いでしょう」
「フッ」
ルートヴァンが思わず鼻で嗤い、
「これは、聖下の前で御無礼を。しかし……」
いまさら、そんなアホがまだいるとは……。
「ルーテルさんにまかせます。では」
云って、ストラがまたうすぼんやりとした調子に戻り、フラフラと荒野を明後日のほうに向かって歩き始めたので、
「旦那旦那旦那あああ~~~~~~~~! こんなところで、やめておくれでやんす~~~~~~こっちこっち、こっちでやんすよお~~~~~~~~」
プランタンタンがすかさずそれを見つけ、踵まで埋まる雪をかき分け、ストラの手を引いて街道に戻った。
もっとも、その街道も半分以上が雪にまみれてよく分からない。みな、街道だろうと思わしきところをひたすら歩いている。
フューヴァとペートリューも立ち止まって2人を迎え、ルートヴァンが眼を細めてそんな4人を見守った。
(さて……と)
さっそく、ルートヴァンが仕事に入る。オネランノタルに魔力通話。
「オネランノタル殿、いまの聖下の御話は……」
「聴いていたよ! 救いがたい馬鹿ってのは、どこにでもいるものさ。そんな馬鹿に巻きこまれる不幸な連中もね!」
「フ、フ……不幸な連中をいちいち救ってやるほど、我らはヒマではありません。さて、しかし、いったい何者が……?」
「ホルストンの王じゃ無いと思うな」
「ほう……どうしてです?」
ルートヴァンは、魔族のオネランノタルが人間の王国の政治状況に興味を持って類推していることに興味を持った。
「ヴィヒヴァルンが異次元魔王を奉戴し、ノロマンドルやチィコーザが異次元魔王に味方していることは、伝わっているはずだ。ウルゲリアやガフ=シュ=インが、異次元魔王と敵対して滅亡したこともね! 皇帝は、あくまで対立するようだけど……ホルストンていうのは、そこまで皇帝に義理立てする国なのかい?」
「違いますな」
「であれば、ホルストン王は、少なくとも様子見、他国の状況如何では協力体制になるんじゃないか? それなのに、こんな稚拙な攻撃を試みるっていうのは……だよ?」
「もっと小規模な……私的な怨恨か何かで我らに対峙する、王家や王国とは関係ない何者かがいる……と」
「そうなるだろうね!」




