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第15章「嘆きと大地の歌」 1-1 荒野へ

第15章「嘆きと大地の歌」




 帝都圏から西は、しばらく広大な荒野だった。

 街道は通っているが、獣道に等しい。


 まして、この真冬はそれも氷雪に埋もれ、また風が強く一面が荒野の黄土と枯草の茶色に、吹き飛ばされずにかろうじて残っている氷雪の白とのまだら模様になっている。放射冷却現象により緯度の割に気温が低く、ガフ=シュ=インほどではないが、体感はチィコーザ王国の大雪原より厳しいかもしれない。


 そこを進むと、やがて街道は十字路に分かれている。


 まっすぐ西へ行くとバーレ王国に着き、北上するとホルストン王国の主要部に至る。南は、ゲーデル山脈の山裾につながっている。もっとも、ゲーデル山麓は訪れる者がほとんどいないため、街道というよりもう古代街道の跡というほうがしっくり・・・・くる。


 その山麓を目指して、異次元魔王一行は進むことになる。


 東京都24区を含む関東圏が広大なように、帝都圏自体が広く、街を遠ざかっても帝都の食糧を担う広大な田畑が広がっている。いまは農閑期なので、雪の白と豊かな農地の黒が平地や丘陵地帯に延々と広がっていた。


 そこを抜けるのに、3日を要した。

 村に、街道筋の宿屋もあった。


 オネランノタルとピオラはいつも通り夜はどこかに消えたが、その他の8人……ストラ、プランタンタン、ペートリュー、フューヴァ、ルートヴァン、ホーランコル、そしてキレットとネルベェーンは、それぞれ宿屋に別れて泊まり、問題なく帝都圏を抜けた。


 あとは、いつも通りの果てしなき無人の野を行く過酷な旅だ。


 帝国西方圏から帝都を訪れる者でも、ほとんどは北部を周りホルストンやバルベッハを経由して、このラネッツの荒野を横断するものは、ほとんどいない。


 「ここも、寒いなあ」


 風よけにすっぽりとフードを被ったフューヴァが、独り言めいてつぶやいた。チィコーザで用意してもらったジーグルネズミの毛皮の防寒着が役に立った。チィコーザに比べるとかなり南であり、また標高も低いのでそれなりに暖かいはずなのだが、とにかく風が強い。それも、北風ではなく南風だった。


 はるか遠くにそびえるゲーデル山脈から、冷え切った風が、これでもか・・・・・と吹き降ろされているのである。


 しかも、夏はその風がピタリとおさまり、かなり暑いという。

 寒暖差が激しいのだった。


 このラネッツの荒野は、一部ヴィヒヴァルン南部のアデレ平原とつながっているのだが、気候がまるで異なっていた。同じ荒野でもアデレの大平原は豊かな草原地帯で、かつてはアデラドマ草原エルフたちが毛長牛カスタを飼って自由に暮らす代わりに、ヴィヒヴァルン王との盟約によりフィーデ山を不法に越えてくる越境者を監視していた。


 そのエルフたちも、フィーデ山の大噴火でどこかへ消えた。


 フィーデ山の火山灰はゲーデル山脈のはるか上方に広がり、ゲーデル山一帯にも火山灰が厚く堆積したが、このラネッツの荒野側はそれほどでもなかった。火山灰は、アデレ平原と元リーストーン、そしてフランベルツを埋めつくした。


 「おい、ルーテルさん、どれくらいで南に向かうんだよ?」


 野営の天幕テントも風に吹き飛ばされそうだったが、そこは魔術師が4人もいる。(事実上は3人だが。)


 風よけの魔法等で、なんとか真冬の踏破を行えていた。


 そのテントの1つでは、ルートヴァン、ホーランコル、フューヴァ、そしてキレットとネルベェーンの5人で、連夜、逐一打ち合わせを行っている。


 「ピオラの話だと、荒野のど真ん中あたりから南下したところに、ゲーデル山脈の山麓からトライレン・トロールの集落に向かう隠し道があるらしい。そこを目指す。だから、しばらくはこのまま西に向かうよ」


 「しばらくって、どれくらいだよ」

 「ピオラに聴かないと分からないね」

 「だよな」


 しかし、実はピオラも話に聴いているだけで、ゲーデル山の仲間のところに行くのは初めてなのだった。


 「だいじょおぶだあ、ちゃんと、覚えてっからよお」


 などと云うが、道を覚えているのではなく話を覚えているという意味なので、はなはだ・・・・心もとない。


 「なあに、いざとなれば、私が先行して偵察してくるよ」

 これは、オネランノタルだ。


 なお、オネランノタルはもうすっかり無人なので真っ黒い魔力のフードをかぶっておらず、またピオラもこの寒さがむしろちょうど良いようで、冷房付の魔力フードをマントのように展開している。


 なんにせよ、ここまで来て、先行きに不安を覚える者は、誰もいなかった。

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