第14章「きおく」 6-14 魔力振動法
計測機器があるわけではないので正確な数値は不明だったが、手で触れながらリースヴィルが魔力を感知する。
「……公女様、部材そのものから魔力を感じます」
部材そのものというのが、ミソだった。魔術による強化魔法の場合は、正確には強化対象ではなく対象に施された術式が魔力とその効果を発する。「部材そのもの」という場合は、術式による魔力付与ではなく、むしろ「直に魔力を練りこんだ物質」というイメージだ。
ストラ風の解釈だと、高エネルギー内在重素粒子である魔力子(仮称)を原子レベルで部材に固着させ、強力な新素材とする……という理解になる。その原理や方法は、不明だとしても。
「では、私の云う通りの法を試してみてください」
「分かりました、公女様。どうぞ」
「かなりの魔力消費になると思われますので、自己の存在保存限界に注意。貴方が消えては、せっかくの部材も採集できませんからね」
「大丈夫です!」
「魔力を集中し、部材の魔力と波長を合わせて下さい」
「やってみます」
リースヴィルが、部材に手を触れたまま、魔力を集中させる。そうしてじっくりと魔力を探り、針で小さなビーズをひっかけるような感覚で、部材の放つ魔力と自らの魔力を合わせる。
「…………」
同じ魔力と云っても、この世界の「魔力」とスライデル人の「スピース」では、天然塩と精製塩、川の水と蒸留水くらい精度というか純度が違った。この世界の魔力は、ロンボーンに云わせたら「無加工」「天然もの」だった。
それらを「合わせる」というのだから、骨が折れた。
なかなか合わず、リースヴィルは焦った。
「必ず合います、リースヴィル。時間はたっぷりありますよ」
「はい、公女様」
ほんの20分ほどだったが、リースヴィルには2時間にも感じられた。
「……!」
リースヴィルが眼を見開いた。
(ひっかかった……!!)
リースヴィルの感覚では、そういう表現がぴったりだった。
「公女様! できました! どうぞ!」
「よくやりました、リースヴィル。ですが、ここからが肝心ですよ」
「はい!」
リースヴィルが緊張しつつ、魔力のつながりを維持する。
「合わせた魔力を慎重に引っ張って、離れるギリギリで押し戻してください」
「え……?」
「魔力振動が生まれ、反発効果で部材を崩すはず……1回でできなければ、何回か繰り返してください。ただし、慎重に……! せっかくつながった魔力が、途切れますよ」
なんたる職人技か。しかも、ぶっつけ本番の。
(う……!)
見た目は、単に部材にかざした手をゆっくりと着けたり離したりしているだけだった。
が、ルートヴァンの魔力と魔法センスをコピーしているリースヴィル、何度かそうしているうちに、微細な魔力の流れを感じ取ることができた。
(……なるほど、そういうこと……か……!!)
まるで細いゴム紐でも引っ張っているかのように、魔力が物質を引っ張る感覚。あるいは、クモの糸で引っ張っているかのような。この場合、この世界の住人には原子という理解がないので、物質そのものを引っ張っているとしか云いようがないが、ストラに云わせたら、魔力子が原子に干渉している。それを揺り動かすことで、原子構造のつながりを破断する。
光子破断効果に類似した、魔力子破断効果とでも云うべき現象だった。
(……来た……!)
リースヴィルが、目を見張った。
瞬間、黒い骨に、微細なヒビが入った。
「いまだ!」
グッ、と、リースヴィルが魔力を押した。
ボゴン、と、鈍い音がして、厚さ60センチはあるフレーム部材が破断され、ゆっくりと崩れて海底に倒れた。
「こ、公女様、やりました!」
「よくやりました、リースヴィル。さあ、幾つか部材を確保し、採集しましょう」
「はい!!」
リースヴィルが頬を紅潮させ、両手に魔力を集中させた。
そうして……。
数時間をかけ、いくつかの部材を確保した。
厚さ60センチのフレーム部材で、長さ10メートルほどのものが4本、20メートルほどのものが2本、それに幅1メートル半、長さ15メートルの板状のものが1枚。
これだけあれば、魔力振動法で裁断、削り出して加工し、予備も含めてフローゼの新たな躯体を製作できるだろう。また、場所が分かり、採集方法も確立したので、また採りに来ることもできる。
井桁が重なったような装置の井桁の部分が伸びて、合計で12あるカニのハサミのようなアームが部材をそれぞれしっかりと掴んで確保した。
「公女様、これで良いかと思います」
「ではリースヴィル、充分に気をつけて、帰還して下さい」
「畏まりました!」
リースヴィルと井桁の運搬魔導装置が、ゆっくりと深海より浮上を開始した。




