表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
947/1280

第14章「きおく」 6-13 黒い骨

 「大船……!? 城か何かの間違いでは!?」


 ペッテルも、規模の大きさに驚愕した。この世界の住人の概念では、巨大な船と云っても全長数十メートルが発想の限界だ。まして、ペッテルは山国から出たことが無いので、湖や沼に浮かぶボート以外の船を見たことが無い。本で読んだだけだ。その本で読んだ船の、数百倍の規模なのだ。


 「公女様、どの部材を採集しますか?」

 「え……? ええ……そうですね」


 そう云われても、ペッテルも大きすぎるのとぐちゃぐちゃすぎるので、にわかに判断がつかなかった。まったく初めて目にするし……どれがどれやら……だ。


 「リースヴィル、触ることは可能ですか?」

 「もちろんです。感覚をつなぎます」


 とはいえ、猛悪的な水圧や超低温までリンクしてはいけない。が、そこは「魔法」だ。部材の触感だけ、つなぐ。


 「目の前の大きな船体? の、中に入れますか?」

 「入れますよ」


 船体の一部がひしゃげて大穴が空き、外殻部の頑丈な基礎フレームがむき出しになっている。真っ黒い巨大な生物の骨のように見えた。それが捻じれ、折れ、引きちぎれて虚無的に海中に手を広げていた。


 ヤマハルのような殖民宇宙船は円筒形の宇宙コロニーに似て、外殻とそれを支える梁が最も頑丈で、中は空っぽが基本構造だ。いま、目の前にある壊れた傘の骨みたいな、むき出しになっている無数のフレーム部材が、ヤマハルで最も強度の高い部材だった。


 ペッテルもリースヴィルも、それを知るはずもないが、自然とその「黒い骨」に注目していた。


 とり急ぎ、リースヴィルは目の前に突き出ている長さ20メートル、幅60センチほどの、ひしゃげたフレームに近より、触ってみた。


 リースヴィルは基本的な知識や記憶はルートヴァンからコピーされているが、初めて触る感触だった。金属のようで陶器のようでもあったし、有機的な感触も感じられた。なんにせよ、なんらかの複合合成部材だ。


 「……どうですか? 公女様」

 「未知の部材です。このようなものは、この世界にはありません」

 「加工できますか?」

 「どうやって加工するのか……から、実験を繰り返さないといけないでしょう」


 それは、フローゼの修理にかなり時間を有することを意味する。

 それ以前に、そもそも、どうやって切り出すのか?

 それは、魔法を使うほかはない。

 「切断魔法を試します」

 リースヴィルが、真空派による切断術を思考行使で試す。


 が、海中なので、激しい水流が埋まれるだけだった。接触するほどの超近接から放ってみたが、傷もつかなかった。


 「水切断術を試します」

 超高圧水流で敵を倒す魔法だ。


 凄まじい水流が生まれ、それを極一点に集中する。これが難しい。ウォーターカッターで、生体や通常の金属装甲など、豆腐を切るように切ることができる。


 が、水中なためか、部材が頑強なのか、ビクともしなかった。

 「高熱魔法を試します」

 プラズマ溶接に匹敵する火力を出したが、無傷だった。

 「魔法の刃を出します」


 あるとあらゆる魔法による刃物を試したが、文字通りどれも歯が立たない。

 「これは頑丈だ!」

 リースヴィルが眼をむいた。

 「公女様、周囲に落ちているのを拾いますか?」


 「いいえ、切り出せないと加工もできません。それに、壊れているということは、破壊する方法があるということです」


 「確かに……」


 とはいえ、ストラ級の破壊力や、ヤマハルが重力下の自重で折れ潰れるほどの力や、成層圏から海面へ叩きつけられるほどの衝撃をリースヴィルが発するのは不可能である。


 「破断されている先端部を観察してみてください」

 「分かりました」


 リースヴィルが、巨大恐竜の肋骨めいた部材にそって上昇し、先端へ向かった。ぼっきりと折れている。


 「折れるんですね」

 リースヴィルが、破断面を間近から見やって云った。

 「曲がってもいるでしょう」


 全体にゆるいカーブがかかっているが、途中からグネグネと不自然な方向にゆがんで、そこで折れているように見えた。


 「すごい力が加わって、曲がりつつ、耐えきれなくなって折れたのでしょう」

 「しかし公女様、どちらにせよ、力まかせに折るだけでは、加工は難しいです」

 「分かってます……リースヴィル、魔力の含有量を計測できますか?」

 「魔力の?」

 そこはさすがにペッテル、魔術師というより魔導技術者の発想だった。


 「魔法術式ではなく、純粋な魔力の照射で、部材を強化する法があるのです。もしかしたら、この大船も……」


 「なるほど、やってみます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ