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第14章「きおく」 6-10 着陸可能な惑星

 全長2キロのヤマハルの外殻が開き、奴隷格納区画そのものがせり出された。そのまま、区画が解放、総員48,974人の睡眠奴隷中、まだ睡眠中の48,756人がいっせいに各個睡眠槽ごと宇宙空間に放出された。まるで、巨大な生き物が無数の卵を海中に放っているかのように。


 ヤマハル自体、大嵐に翻弄されるヨットめいて揺れまくっているため、そのまま船体に叩きつけられて、奴隷たちは原型もなくひしゃげて宇宙とスピース奔流の藻屑となる。


 ものの20分ほどで、公共スペース兼避難所に逃げこんで未だ生き残っている奴隷数十名を除き、全奴隷が廃棄及び処分された。


 「非常事態宣言解除、治安デヴァイスを回収、警備デヴァイスと交代」

 船長がなんとも云えない嘆息と共に、そう吐き出した。

 だが、事態が収まったわけではない。

 「主機はまだ復旧しないのか?」

 機関長がロンボーンに確認し、


 「まだかかります!」

 「復旧急げ。副炉は?」

 「いまのところ、順調です!」

 「副炉だけが頼りだ、何とか持ちこたえさせろ」


 しかし、万が一、この状態で生きていた海賊に襲われたら、火器を使っている余裕はない。


 そこへ……。

 「船長、78000ソプルの位置に、着陸可能な惑星を発見!」

 救いの声に聞こえた。船長が身を乗り出し、

 「なんていう星だ!?」


 「分かりません。未知太陽系です。しかし、高確率で本星や各殖民星に類似。そのまま降りられると思われます!」


 「進路変更、極短距離亜空間航法準備急げ。目標、未知惑星。座標確定させろ!」


 「……この状態で亜空間に突入するんですか?」

 「やらないと、到達できんだろう!」


 それもその通りだ。いまのままでは、出力が足りず流されるだけだ。全乗組員が、緊急亜空間ドライヴ準備に入る。


 そうは云っても、主機が止まっているうえに空間が大荒れの状況で、事象の地平線を越えられるのだろうか!?


 亜空間航法学を履修した幹部船員は、全員がそう思った。が、口に出せる状況ではなかった。


 「シミュレーション!」

 「システム制御室と連絡途絶中!」

 「どうなってんだ、クソが!」

 ブリッジも、まだシステム室とつながっていない。

 「誰か、直接行け!」

 「間に合いませんよ!」

 「じゃあ、ぶっつけ本番だ!」

 マジかよ……! と、みな思ったが、それも口に出せなかった。

 「主機回復急げ!」


 機関長が叫んだが、こちらもまだシステム制御室と連絡がついておらず、脂汗を流しながらロンボーンが自ら四苦八苦してシステムダウンと格闘していた。


 「やってるんだってえの!」

 思わずロンボーンも声を荒げた。

 「副スピース炉、出力最大より40ロムまで突破」


 ブリッジからのその指示に、ロンボーンは同情した。副炉の設計強度を完全に超過している。第4制御室は、ひっくり返っていることだろう。


 「爆発しないんですか!?」

 「副炉は、25ロムまでのはずだ!」

 機関員らも、顔がゆがんでいる。

 「さあな。祈るしかない」

 「そんな……!」


 「短距離ジャンプだから、瞬間最大で出力が出れば、あとは慣性で行けるはずだ。船長はそう判断したんだろう!」


 ロンボーンは、汗をぬぐい、

 (それに、積み荷・・・を捨ててだいぶん軽くなっているしな……!)

 冷静に、そう思った。

 次元推進機が副炉に直結し、エネルギー回路が切りかわった。


 スピース奔流にまみれて、滅茶苦茶に揺れているヤマハルが、スピースの波を切り裂いて走り始めた。


 「……おい、まさか、これは行けるんじゃないか!?」

 揺れの収まりと加速の度合いで、皆そう思った。

 「加速充分!」

 「次元操作開始」

 装置が作動し、ヤマハルが次元を割って虹色の光に包まれだす。

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