第14章「きおく」 6-9 船内火器使用許可
モニターを確認すると、目を覚ました一部の奴隷が、無許可で緊急脱出艇の準備をしていた。
ちなみに、奴隷たちにその艇に乗る権利はない。
「ふざけるな! 商品だからとつけあがりやがって!」
「船長、処分許可を!」
「艇が奪われます!」
ヤマハル搭乗員は、50数人しかいない。船内の広範囲に分かれているので、脱出艇も分散して数隻しかない。奴隷の分の脱出艇は、基本的に無い。
「そもそも、こんなところで脱出したって意味がない! それに、なんであいつらが脱出艇のことを知ってるんだ!?」
つまり、一部の乗員が勝手に持ち場を離れ、無許可で脱出しようとしていたところを、奴隷に襲われたのだった。
「全員、処分しろ!!!!」
怒り狂った船長が、船内火器使用許可を出した。
「課長、大変です!」
「分かってる!」
全自動の船内警備……いや、治安デヴァイスが作動したのを確認し、ロンボーンも目を見張った。続々と船内を数百の自律式戦闘端末が動き回っている。
「な……なにが……!?」
「課長、逃げましょう!」
「ばか、警備じゃない、治安ユニットだよく見ろ! 指示も無しにウロウロしてたら、社員でも殺されかねないぞ! 非常事態宣言だ!」
「でも……!」
若い機関員は、泣き出している。
「避難マニュアルを確認しておけ、指示が出次第、いつでも退避できるように!」
「わ、分かりました!」
涙目で、機関員たちが答えた。
船内治安ユニットは、海賊などの侵入者や奴隷などが叛乱を起こした場合に鎮圧するための最終機能であり、対人火器を搭載している。これが出てくる事態というのは、最悪的な非常事態を意味しており、殖民会社の社員や派遣の準社員はあらかじめ定められた場所(各員の勤務室や個室、公共スペース兼避難所)にいないと命に係わる。
全長1.2メートル、体高80センチほどの、4本足の立ち上がったウイルスみたいな物体が船内を滑るように極底浮遊移動して、目覚めて暴れる一部の殖民奴隷たちに殺到した。黒地に赤い斑点の入った警告カラーで、抵抗・無抵抗に関わらず、容赦なく対人レーザー砲を発砲した。
「法律違反じゃないか!」
奴隷と云っても、全員が無知な訳ではない。
奴隷頭というか、リーダー格は培養奴隷であっても基本的な自動学習が済んでおり、最低限保証された奴隷の権利も学んでいる。
ちなみに、非常事態宣言中は殖民奴隷管理法でも治安維持が優先かつ正当化されるため、法律違反ではない。それどころか、社員ですら危ないのだ。
「逃げろ!」
船員を脅して救難脱出艇を用意していた現場では容赦ない殺戮が行われ、死屍累々となった。レーザーガンなので傷は焼かれて血が出ないため、欠損した一部が焼け焦げた状態の死体が転がっている。不幸だったのは、勝手に持ち場を離れて救難艇を用意していたところを奴隷に襲われた一部の船員も、その中に含まれていたことだった。
ブリッジでは、さらに不運に襲われている。
「緊急事態! 奴隷格納全区画で、睡眠解除が始まっています!」
船長が目をむいて天井を仰ぎ見た。
いくら治安ユニットが数百基あろうと、ヤマハルで運搬中の奴隷は約5万人だ。全員が船内で目覚めたら、収拾がつかない。
「原因不明! 過スピース曝露によるシステムエラーと推測! システム修復、間に合いません!」
「船長!」
天井をむいていた船長が、勢いよく身を戻す。
「全区画、奴隷を強制排除しろ!」
これで、もうヤマハルは殖民船としての価値の大半が無くなった。
「りょ……了解です!」
係員が奴隷区画制御室へ連絡し、制御室では流石に躊躇。船長が直に、
「超法規的措置だ! 私が責任を取る! 死にたくなければ奴隷を捨てろ! 船が生きてるうちにだ!」
「わ、分かりました!!」
制御室長が大急ぎで非常用システムを立ち上げ、副室長とパスを合わせる。
「1、2、3」
生体スピースパスが通り、システムが作動。




