第14章「きおく」 6-8 観測史上最大のスピース奔流
ベルトも引きちぎれんばかりになり、船長が席から投げ出されそうになった。なんとか耐えたが、船員の中にはいまの衝撃で投げ出されて負傷したものもいる。
「たいへんです、一部の睡眠奴隷が、目を覚ましました!」
「衝撃による機器の異常です!」
「スピース炉、急激に出力低下中! 原因不明!」
「次元推進機、停止!」
「主機、完全停止!!」
「船が……船が流されています! 漂流中!」
「なにがどうなってるんだ!」
船長が叫んだが、マジでわけが分からない。
第3制御室では、全力運転中のスピース炉が突如として落ちたので、あるとあらゆる復旧作業が行われていた。
しかし、原因が分からないので手の施しようがない。
「もう一度、マニュアルにそって1から点火だ! 何としても縮退を復活させろ!!」
ロンボーンが叫んだが、そもそもシステムが云うことを聞かない。
「なんだってんだ!」
プログラム修復から始めないといけなかった。ロンボーンが緊急補修システムを開いたが、あまりにエラーが多く、一級免許所持者とはいえ、にわかに手が出ない。
「プログラム技師に連絡しろ!!」
「連絡がつきません!」
「総合、総合、聴こえますか!」
「…………!!」
謎の雑音により、通信が途絶した。
ロンボーンが、愕然として固まった。
何が起きているのか、さっぱりわからない。
ブリッジでは、主機が落ちたことによりエネルギー供給が経たれ、非常電源に切り替わっていた。主機が復活しない限り、数時間と持たないだろう。緊急脱出アラートが鳴り渡り、奴隷たちの長期睡眠に回すエネルギーも途絶した。運よく目を覚ました奴隷は良いが、このまま生命維持を絶たれて死ぬ奴隷も何万といるだろう。
「船長、脱出しましょう!」
「どこに脱出するんだ! ここがどこかも分からないのに、脱出艇で宇宙を漂流するだけだぞ!」
「しかし……!」
その時、偶然にも副スピース炉が一時復旧し、最低限のエネルギーが回った。
ブリッジでは機器が生き返り、周辺状況のデータが流れてきた。
「ここはどこだ! 航路から、どれだけ離れている!?」
しかし、観測室からの通信は、全く別の現象を伝えてきた。
「み、見たこともない、観測史上最大のスピース奔流の末端に巻きこまれています!」
「……」
船長が息を飲んだ。絞り出すように、
「……なんだと……!!」
この魔力に満ちた宇宙で、川のように流れるスピースの巨大な束が時おり観測されていた。小は惑星の重力にとりこまれて環になる程度のものだが、大は太陽系を呑みこむほどだった。
また流れの規模にもよるが、過供給及びスピース曝露により、スピース文明の機器は一時的に機能停止することが知られている。
そのため、宇宙船には観測機器が積まれているし、バリアもある。そもそも航路開拓がスピース奔流をかわしているはずなのだ。
それなのに、こんな、亜空間にすら影響を与え、全長2キロの宇宙船が木端のように流されるほどの奔流に衝突するとは。
(まさか、これが海賊どもの罠なのか……!?)
船長はそう思ったが、
「船長! 海賊船が!」
モニターを見ると、かなり遠くで、猛悪的なまでの高濃度スピース奔流の波にのまれて機能停止した船体がねじれ、引き裂かれてバラバラの粉々になる海賊船の1隻が確認できた。
「海賊どもも巻きこまれたんだ!」
誰かが叫び、船長が絶句した。
(駆逐艦がああなるのか……!)
ゴクリと喉を鳴らし、
(ヤマハルは運がいい……うまく、波に乗ったんだ……!)
そして、まだ機器が生きているうちに、
「どっ、どこでもいい! 近くに居住可能惑星を探せ! 緊急不時着だ!」
「星に降りるんですか!?」
「遭難信号!」
「自動でとっくに出ています!」
「ヤマハルを生かせ!」
「船長、奴隷どもが勝手に!」




