第14章「きおく」 6-7 次元振動
あとは、機械も人間も、我慢比べだった。
15時間が経過した。
軍人なら、この程度の作戦時間は通常任務のうちだろうが、民間船はそうはゆかぬ。
全員が疲労困憊だ。
そもそも、この速度であればそろそろ想定距離に到達し、亜空間航行を終了する。
予定を変えてこのまま突っ走れば、目標地点を大きく超えて遭難するか、燃料切れで次元漂流だ。その前に通常空間に出て、スピースを収集しなくてはならない。
もちろん、そのとたんに速度が落ち、スピース収集装置展開により火器使用も大幅に制限され、余裕で拿捕される
(海賊船も増援が来ないし、やはり、狙っているのはそっちか……?)
船長が、大きく息を吐いた。
航行限界まで残り5時間。
決断しなくてはならない。
(降伏したところで、相手は軍閥……法的な保護は何も期待できない。殺されるか、売られるか……海賊どものところで奴隷か)
で、あれば、元軍人としては、
(死なばもろともで反撃し、死中に活を求める他はない)
そういう発想になる。
しかし、乗務員のほとんどは軍務経験が無い。
その作戦に、どこまで着いて来れるか、未知数だった。
(未知でも何でも、やるしかない!!!!)
船長が悲壮的な覚悟を決めた、そのときであった。
突如、船全体を細かな振動が襲い始めた。
「……なんだ……?」
「なんだなんだ!?」
「何の揺れだ!?」
それが、震度3ほどの揺れになる。この巨大船がそこまで揺れるのは、異常事態だった。
そのため、すわ、スピース炉に限界が!?
と、思われたが、ロンボーンから、
「主機異常なし! この振動は何ですか? 戦闘ですか!?」
総合制御室に問い合わせ。サブ炉からも、同じような通信があった。
「ブリッジ、どうぞ! ブリッジ!」
機関長がブリッジを呼び出した。ブリッジも分かったもので、
「ただいま原因調査中、おそらく次元振動!」
「次元振動!?」
亜空間が不安定になっていることを意味する。
「原因は!?」
「不明だ!」
云ってる間にも、縦揺れから横揺れ、さらにはうねりを伴った三次元的な三角揺れになった。まるで、本物の海の上で嵐に遭遇したように。
「船長、このままでは危険です!」
「減速! 亜空間航行緊急停止、通常空間に脱出するぞ!」
船長の指示が、緊急警報と同等に全制御室へ直接届いた。
「減速!! 縮退機出力下げ!」
ロンボーンが叫び、主機が急減縮。一気に出力が落ちる。
「対衝撃姿勢!」
亜空間内次元反発降下により急制動がかかり、巨大船がさらに激しく揺れた。ロンボーンたちも自動的に席のベルトが締まり、地震のような振動に耐えた。
同時に空間制御室では亜空間から通常空間への緊急脱出のため、制御装置がフル稼働した。
そして、
「海賊船はどうしている!?」
この空間の乱れで、海賊どももどこかの通常空間へ脱出していたら不幸中の幸いだ。脱出のタイミングがずれればずれるほど、バラバラの位置に出る。
「分かりません! 補足不能です!」
船長が舌を打つ。
(しかし、こんな状況では、軍艦と云えど無理をしたらただではすまんぞ!)
「事象の地平線に戻ります!!」
七色の次元光が光り輝き、空間が割れた。
そのまま、潜水艦が緊急浮上するかのごとく、通常空間に向けて飛び出た。
飛び出た先は、異様な場所だった。
見た感じ、特にガス星雲があるわけでもなく、岩礁地帯なわけでもない。
航行には何の支障もないように思えた。
目視では。
巨大宇宙船が、津波に押し流されたように横に揺れた。姿勢が保てない。
あまりの衝撃に、いっせいに船体の数百か所でアラートが鳴る。
「なんなんだよ、これは!!」




