第14章「きおく」 6-5 とんだ貧乏くじ
間を置かずに、再び緊急警報。
「進行方向に、海賊船多数、繰り返す、進行方向に海賊船多数、各自亜空間内戦闘に移れ! 亜空間航行中は船団戦闘は不可能! 繰り返す、各自亜空間内自由戦闘を開始! 目標地点で集合! 幸運を祈る!」
「ど、どういうことですか!?」
さすがに、課員たちが青ざめた。
「待ち伏せくらったんだ! やっぱり、追いこまれた! 敵は亜空間内戦闘をしかけて、こっちを拿捕するつもりだぞ!」
ロンボーンがそう云って、苦虫をかみつぶした。
「てことは……やっぱり、海賊じゃなくて軍隊だ! 軍閥だ!」
「どこの軍閥だよ!」
「分からねえ!」
「ヘンデルンってやつらだろ!?」
「捕まったら奴隷にされて売られるぞ!」
無理もないが、課員たちが、パニックとなった。
「ヤマハルの船長と火器管制員は、軍隊上がりだと云ったろう! それを信じるしかない……とにかく最大出力を維持しろ!!」
ロンボーンが云うが、この巨大船の奥にも聞こえてくるほどの勢いで、主砲と副砲が全問斉射する音と振動が伝わってきた。
「あわわわ……!!」
課員たちが震え上がった。戦闘と云っても、海賊を追っ払うというレベルではない。こんな規模は、もはや戦争だ。
こんな時に、機関員のすることは主機のフル回転維持と祈ることしかない。戦闘は完全に御任せだ。
「課長……規模が大きくないですか」
副課長も、不安げに顔をゆがめる。
「12隻もの船団を拿捕しようってんだ……規模も大きくなるだろうさ。それに、こっちが沈んじまったら、向こうにとっても意味がない。近づけさせなきゃ、逃げるチャンスはあると思うが……」
「しかし……」
そこで副課長が課員たちに聴かれないように声を潜めて、
「……拿捕できなかった場合、見せしめや嫌がらせで撃沈する場合もあるっていうじゃないですか……」
「…………」
ロンボーンは答えなかった。その通りだ。
まして、相手は単なる海賊ではない。軍閥そのものだ。巨大テロリストだ。
政治が絡む。
本星政府や正規軍への警告に、船団全滅を狙っていてもおかしくない。
(シージィに、既にそいつらの利権があるってことか……!?)
もしそうだとしたら、そんなところに何も聞かされずに殖民に行かされていることになる。
とんだ貧乏くじではないか。
「参ったなあ」
ロンボーンが、むしろ苦笑してしまった。壊滅的に運がない。
そんなロンボーンを見て、副課長が青ざめた。
亜空間内では、三次元空間での法則が一切通用しない。
通常弾はどこに飛んでゆくかまったく分からず、使用不能だ。
重粒子砲やレーザー砲の類は、次元操作プログラムの応用による特殊な演算処理によって飛ぶ方向をなんとか予測できるが、短距離に限られ、近接戦でようやく使用できた。あとは、敵との距離や方向を随時修正する。それが、計算するより人間の手と経験の修正のほうが速くて効率が良いので、火砲担当の職人技が必要になる。シミュレーションでは限界があり、こればかりは実戦経験がものを云った。
ミサイル類は、ミサイルそのものが次元操作処理をしながら自律式で飛ぶものに限っては有効だったが、ミサイル1発1発に次元航行装置と推進機を装備するためえらいコストがかかり、特殊な大型ミサイルのみが実用化されていた。
ストラのいた世界ではテトラパウケナティス構造体による光子コンピューターが実用化されているため、光速超絶大量演算による力技で、それらを完全に自動制御していたが、この魔力世界ではまだまだアナログ技術が必要なのだった。
「近接防御壁展開急げ」
ヤマハルには3隻の駆逐艦級の海賊船が急接近し、ヤマハルが弾幕を張りつつスピースを直接利用したバリアを発生させる。大型船ならではの、ぜいたくなスピースの利用法だった。火器類はサブ炉に直結しているのは既に述べたが、防御用の結晶がまた他にあるのだ。
「主機さらに増速」
ブリッジから総合制御室に指示が来て、機関長が復唱。直接操作し、スピース炉がさらに出力をあげる。
それを管理するのが、ロンボーンたちの仕事だ。




