第14章「きおく」 6-4 緊急警報
なお、火器に関する各種エネルギーは副スピース炉に直結しており、主機は最大船速の準備に入る。
「主機、第2炉とも全力運転に備えろ」
総合機関制御室から指示が来て、ロンボーンが「了解」と応えた。
「課長、実戦経験ありますか」
「あるよ」
ロンボーンが事も無げに答えた。
「あるんですか……!」
「しかし、機関区には関係ない。古来よりそうだ。いまは外部情報もわかるけど、大昔は、機関区は船の最底部だし、外がどうなっているのかも分からずに、ひたすら全力運転に集中していたそうだ。勝てば生き残るし、負けたときは、機関員なんかアッという間に船と運命だよ。船底にいるんだしな。総員退艦も、一番最後だ」
「そりゃ、海で戦っていた時代でしょう」
誰かがそう云って笑った。
「宇宙だって同じだよ。おれたちが戦うんじゃないし、操船するんでもない。ただ、全力稼働に集中していろよ」
「了解です」
副課長がそう云い、若い課員を黙らせた。無駄口や軽口をたたいている状況ではない。
それから、緊張の時間がじっとりと流れ、数時間が過ぎた。若い課員も緊張に疲れて、集中力も途切れがちになる。
「クソ、海賊め、来るならとっとと来いや……来ないなら、早くどっか行っちまえ」
誰かがつぶやいたが、みな、同じ思いだった。
「注意報、長いですね……」
副課長がそう云い、
「……プレッシャーをかけてるんだよ。つかず、離れずでな。こっちが大船団なもので、うかつに手を出せないんだろう」
「様子見ってことですか?」
「分からんけど……誘いかもな」
「誘い?」
「野生動物でも、大昔の人間の狩りでも、追い立て役がいて、待ち伏せ役のところに追いこむんだよ」
ロンボーンがそう云ったときであった。部屋全体に緊急警報が鳴った。再びブリッジより全制御室へ直接電。
「海賊船団が急速接近中、数は駆逐艦クラスが8。火器管制レベル3へ移行、戦闘準備。船団司令発、船団は防御陣形、最大船速急げ!」
「きたぞ! 回せ! 縮退機最大出力だ!」
12隻の船団が司令船でもあるワサーキカを中心に輪形陣を組み、最大船速に入った。次々に船体内部より全火砲が出現する。
「このまま亜空間へ退避する、主機、準備いいか?」
総合制御室から指令が来て、ロンボーン、
「いつでもどうぞ!」
「回せ!」
「了解!」
ロンボーンが自ら操作し、最大船速からさらに亜空間ジャンプのためスピース炉がフル運転に入った。
「エネルギー充填完了次第、各船予定通り第20次亜空間航行に突入せよ!」
船団司令の発令により、準備が整った順に、亜空間へ突入した。ヤマハルも、
「空間制御開始、事象の地平線を突破する。主機スピース炉、出力最大へ」
「出力最大! 空間制御機及び推進機へ主機エネルギー直結します!」
機関長が操作し、ヤマハルの亜空間制御装置にメインスピース炉からエネルギーが雪崩れこんだ。
空間推進機制御室が、すかさず機器を作動させる。ヤマハルが空間断層光である独特の彩光に包まれ、事象の地平線を突破。亜空間へ突入した。
「突入に成功。亜空間航行へ移行します」
突入してしまえば、座標軸の関係で、海賊船が追ってくるのは難しい。また、追ってきたとしても亜空間内戦闘はかなりの技術と経験を要し、本職の軍隊の仕事だ。いくら軍閥の支援があるからと云って、海賊には、やはり装備的にも技量的にも荷が重い。
いつもの作業だったが、緊張感がケタ違いだった。第3制御室でも、みな緊張がとぎれてドッと息を吐いた。
「やったな」
誰かがつぶやいたが、
「まだ警報発令中だぞ、気を抜くな!」
「ハイ!」
副課長にどやされ、課員たちが気を引き締める。
果たして……。




