第14章「きおく」 6-2 抜き打ちテスト
膨大な量のスピースを畜スピース結晶に備蓄し、そこから供給されるスピースを縮退炉で超爆縮し、エネルギーを絞り取る。
そのエネルギーで、空間制御から火器管制から全てを賄う。一部は、発電素子を通じて発電に使われる。
「出力188ダンデ、60万ロゲルを維持。縮退順調、異常ありません。スピース残量58サンス」
全機関統括を行う総合機関制御室に、第3制御室からロンボーンの報告が上がる。
「補助炉はどうか」
ロンボーンの上司にあたる機関長が、サブエンジンにあたる補助スピース炉を制御する第4制御室へ云った。
「こちら第4制御室、出力145ダンデ、22万ロゲル。問題ありません。スピース残量65サンス」
「意外とスピースを食ってるな」
機関長がそう云うや、機関員の1人が船速を確認する。
「185クフラン、けっこう飛ばしてますね」
「ヤマハルだけ?」
「いいえ、船団がかなり飛ばしてます。機関長、何か、聴いてませんか」
「聴いてないな」
機関長がブリッジに通話。
「こちら総合機関制御室、予定外に船団速度が上がっている理由を聴きたい」
すぐさま航海長から返信。
「こちら航海室、船団長指令で、船団の亜空間内高速航行テストを兼ねている、どうぞ」
「聴いてないぞ」
「我々も聴いてない」
「何かあったのか?」
そこで、映像の中の航海士が少し画面から外れ、誰かに確認を取っているのがうかがえた。船長だろう。
(そんな重大事か?)
機関長は、嫌な予感がした。
「……軍の広域警戒部隊から、海賊出現情報があった模様だ。それで、念のため、急遽実践テストを」
(海賊か……!)
機関長の嫌な予感があったった。
「そんな大事なことは、事前に教えておいてもらわないとな」
「抜き打ちに近い。文句を云うなよ、みんな同じだ」
「そうかい」
渋い顔で、機関長が通信を切った。
「海賊ですか」
機関員が不安げに云った。
「海賊なんざ、殖民船団の仕事じゃ珍しくもない。殖民船は、宝船だからな」
「確かに……」
「しかし、この大船団が全速力で逃げる練習をしなきゃいけないほどの海賊ってうのは、ちょっと聴いたことが無い規模だ」
機関長が云いつつ、最近のこの宇宙粋方面の海賊情報を検索した。
「……こいつらか?」
一般ニュースが幾つかひっかかり、また業界内情報でも同じ海賊団がヒットする。
駆逐艦や巡洋艦クラスの戦闘艦を多数有した、広域海賊団「ヘンデルン」だ。
「なんですか、こいつらは……!」
その情報を共有した機関員たちも、驚いて眉をひそめた。
「どこで、こんな強力な戦闘艦を入手できるんです? ほとんど軍隊じゃないですか!」
「だから、よ、軍隊だよ、こいつら」
「ええっ!?」
「軍閥が、裏で海賊を経営してるようなもんだ。この規模になるとな」
「そんな……!」
そこで別の機関員が、
「情報を提供してきたという軍とは、違うんですか?」
「違うだろ。そっちは本星の正規軍だ」
正規軍と地方軍閥の私軍。
殖民星系が広がれば広がるほど、各星は半独立状態で好き勝手にやるものだ。
「だけど、武装だったらこっちも負けてない。それに、こっちだって船長や火器管制員は元軍人だからな」
「そうなんですか」
安堵と不安の入り混じった表情で、機関員たちがモニターの監視に戻った。
そして、機関長は各制御室長に今の情報を共有した。




