第14章「きおく」 6-1 ロンボーンの記憶
ここで、ヤマハルの諸元を簡単に記す。(単位の一部はスライデル星系のもの。)
・殖民用恒星間航行デヴァイス 宇宙船「ヤマハル」
全長約2キロ、直系約200メートルの円筒葉巻型 乗員54人
主機 リンドベルン型縮退スピース炉 1基 出力75万ロゲル
補助機関 クリチア型縮退スピース炉 1基 出力32万ロゲル
スピース収集機構 ネリヴァル式スピース収集装置 8基
睡眠殖民奴隷5万人、その他殖民用各種装置及び物資搭載 テラフォーミング機能各種搭載
武装 主砲 大口径圧縮スピース粒子砲18基
副砲 中口径レーザー砲88基
近接戦闘用小口径レーザー機関砲1280基
ホーミング対艦ミサイル発射装置2500基
スピースシールド発生機 40基
この、殖民船に似つかわしくない重武装はクエリス級巡洋艦に匹敵し、全て宇宙海賊や未知の巨大宇宙生物対策である。民間の殖民船団に、特別な例外を除いていちいち軍艦は護衛につかないためだ。
スライデル星系歴829年、新規開拓のため、第18開拓星シージィ殖民船団第2次12隻が出発した。第5次まで計画され、成功すれば第11殖民星シージィになる。
この第2次船団が、最も大規模だった。先遣隊である第1次3隻の殖民結果がまずまずなので、第2次で大量に人員と物資を送りこみ、一気に基礎を作る。
なので、その大量の奴隷と物資、さらには宇宙船そのものを狙った大規模海賊団の襲来が、もっとも懸念される。
「そうは云っても、12隻の重武装殖民船団を襲えるほどの大規模な海賊というのも、あまり聴いたことが無いけどな」
軍と海賊のイタチごっこも長年続いており、一部の軍閥は海賊を抱えて傘下に置き、襲撃と取り締まりのマッチポンプまがいのことをやっているとの噂もあるが、確証はない。それどころか、最辺境には海賊を兼ねている軍閥すらあるという。
「とにかく、殖民船は宝の山を積んでるからね」
植民奴隷は大企業がウラで経営する違法産業惑星や鉱山星へいくらでも高く売れるし、殖民用の大規模機材や、そもそもこの規模の大型宇宙船自体が高価だ。スピース炉だけでも、云い値で売れる。
「課長は、海賊に襲われたことがあるんですか?」
主機縮退スピース炉を管理する最前線である第3制御室で、ロンボーンが話しかけられた。みな、薄褐色の肌で背の高い、頭の尖ったスライデル人だ。
「1回だけ、あるよ」
ロンボーン、髭もまだ黒い。
「どうでした?」
「あの時は、振りきった。船長が腕自慢でね、火器管制員ともども元軍人だった」
「今回の船長も、元軍人と聴きましたが……」
「そうらしいね」
「じゃあ、だいじょうぶですね」
「だといいがね」
第3制御室にいるのは、非番を除いて7人だ。それぞれ腕の良い技術者で、この巨大宇宙船を動かす主機であるスピース炉を知り尽くしている。特に、巨大スピース結晶と一体型のリンドベルン型は、高出力だが調整が難しい。
ストラのいた魔力のない世界と異なり、スライデル人たちのスピース文明世界は、基本的にこの物語の舞台やタケマ=ミヅカのいた世界と同次元にある。高エネルギーを内在する重素粒子であるところの魔力子……すなわち「魔力」を「スピース」と定義し、主に縮退することによりエネルギーを取り出している。大昔は物理的に回転させ、遠心力によりエネルギーを取り出すことから始まり、進化に進化を重ねて、いま重力場制御を応用した次元圧縮効果による超縮退法を利用している。
つまり、同じエネルギーを利用しておりながら、片や魔術的に呪文や術式を構築し、片や科学的に物理機構を構築していた。
第1殖民星バクーハラは、もう本星に匹敵する規模で発展しており、御世辞にも殖民星というものではなかった。
そこを出発した船団は22回の亜空間航行を経て、スライデル時間で128日後にシージィに到着するスケジュールだった。
最初の100日間は、何の支障もなく、航海は順調を極めた。距離を大幅に短縮させる亜空間航行も問題は無かった。
亜空間ドライヴは全て全自動で、電子計器類を見張る乗員以外は特にすることは無い。
が、機関室は別だ。
通常航行より、むしろスピース炉がフル稼働するからである。
主機の他に補助機関も使い、全船が亜空間内を最高速でぶっ飛ぶ。通常空間に換算すると超光速航行だ。




