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第14章「きおく」 5-6 永遠に御聖女様の御加護がある

 人の輪の中心に小柄なエルフの少女を見つけたターレク、その佇まいに「天の眼」ゴルダーイだと確信した。また、例え偽物でも、ここまで云い伝えの通りであれば、うまく・・・利用できる・・・・・と判断した。すぐさま下馬して人垣をかき分け、


 「お、畏れながら申し上げ……! 御聖女様!! いったい、どのようなわけで……!?」


 「チェスラヴァークという方に呼ばれたので、ガードラへ参ります」

 「ガードラへ!?」

 タ-リクが眼を見開き、

 (これは……間違いない……!)

 と、踏んだ。


 (いよいよ、チェスラヴァーク殿がウルゲリア統一に動き出したか……! そのために御聖女様を! で、あれば、乗り遅れるのは愚の骨頂!)


 ターレクがゴルダーイの足元に片膝をつき、伏し拝みながら、


 「偉大なる大森林の御聖女様! 何卒、なにとぞこのウルゲリアの大地を、御救い給え!! ロウスラのターレク! このロウスラのターレクが、心より御祈り申しあげ奉りまする!! ロウスラの、ターーーレク! で御座りまする!!」


 御丁寧に三度も名乗ってそう云った。

 「はい」

 「御聖女様! も、もしよろしければ……わ、我が城にて……御休憩を……!!」

 「はい」

 (よっっっしゃああああッッッ!!!!!!)

 ターレクが、心の中でこぶしを握り締めた。


 ターレクは気前よく、ゾロゾロとゴルダーイに続いて歩いてきた得体もしれぬ輩を全員城に入れ、手厚くもてなした。


 「よいか、ロウスラのターレク様の御施しだ! 御聖女様に帰依した者のため、ロウスラのターレク様が、施して下さるのだ!」


 兵士達や城の者も口々にそう云い、忙しく立ちはたらいた。


 一方ターレクは謁見のための特別な部屋にゴルダーイを通し、いつも自分が座る席にゴルダーイを座らせて、自らはその前に跪いた。


 「御聖女様……もしよろしければ、このターレクめも御供し、ガードラへ御案内奉ってもよろしいでしょうか!?」


 エッ!? と、ターレクと共にゴルダーイに謁見したターレクの若い跡継ぎ息子(14歳)や、家宰クラスの面々が驚いた。領主自ら、ガードラまで行くというのか!?


 「と、殿! 今、城を空けるのは……!」

 じっさい、近隣の領主から攻撃を受けている真っ最中だ。

 しかし、


 「たわけが! 御聖女様の御力により、ノヴァルクもツラーフも、御聖女様護衛の兵を出しているではないか! 領主自ら御聖女様を御先導申し上げているロウスラを攻める者は、神罰が下ると触れ回れ!」


 ターレクがそう唾を飛ばし、ゴルダーイはぶっきらぼうに、

 「どうぞ、御好きに」

 とだけ云い放った。

 「ハァハハアアーーッ、有り難き幸せ!!」


 ターレクが片膝でそう頭を下げる。そして、ゴルダーイの前に山と積まれた供物をうやうやしく指して、


 「ど……どうぞ、御召し上がりを……」

 「どうも」


 ゴルダーイが良い香りを放つ焼きたての薄焼きパンを手に取り、手でちぎってむしゃむしゃと食べ始めた。


 「わ……我が城の食べ物を! 御聖女様が! 我が城の食べ物を御食べに!! よいか、我がロウスラは、永遠に御聖女様の御加護がある! ……と、触れ回れ!」


 「あ、ハ、ハハッ!」

 家宰が深く礼をした。


 なお、ターレクは最初に御聖女に着き従ってガードラまで案内した領主として高く評価され、初代大神官チェスラヴァークにより大神殿の幹部として取り立てられることになる。


 また、このロウスラ城は御聖女が最初に立ち寄った城として、ウルゲリアを代表する聖地と神殿の1つとなる。



 ターレクとその兵を先導に街道を西へ進んだゴルダーイは、その10日後には総勢で2000人を超える大行列となっていた。


 様々な領地を通るたびにターレクがうまく立ち動き、その土地の領主は食糧や物資を寄進し、また行列を手助けする兵を貸し与えた。


 ターレクはすっかりのこのガードラへの「巡礼」の引率者のようになり、また実際にこの人数を取り仕切る能力を有していた。


 そして、ガードラまであと5日というところで、最大の難関が訪れた。


 ここからガードラへ向かう5日間は、現時点で御聖女信仰に帰依していない領主がひしめいていた。ウルゲリア中央部に残る、御聖女信仰の空白地帯のようなところだった。

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