第14章「きおく」 4-12 占い
事も無げに云われ、フローゼが赤い目を丸くした。
「魔法で?」
「占いだ」
(占いかあ……)
ちょっと期待した自分がバカだったとフローゼは思った。占術は、この世界でも我々の世界と大差なく、当たるも八卦当たらぬも八卦といったところだった。これは、魔力の正体が物理的に定義できる重素粒子であり、魔法がそこからエネルギーを取り出して使用するものであるため、占いなどという未来予知や因果予測にはあまり関与しないからである。
とはいえ、よく当たる魔術師が存在しないわけではなかった。魔力が空間にまで影響を与えている世界である以上、未来空間を探る術を会得している者はいる。ただし、かなりおおざっぱだったが。
バンリカーの祖父と父親、それに母親までもがいっせいにリズミカルな呪文を唱えだし、さらに姉がフローゼの横に座って、向き直ったフローゼの両手を取った。
「…………」
フローゼは人間ではない。バンリカーの姉ベジャンが、その造り物の眼をどこまでも澄んだ黒い眼で見つめた。
なお、このべジャンは、キレットの曾祖母にあたる。
やがて両親や祖父の呪文に合わせ、ベジャンが半トランス状態になって細かく揺れ始めた。
フローゼが興味深く観察していると、20分ほどで、
「汝の追う敵は近くにいる」
と、べジャンが云った。
「え……」
フローゼが驚いて息を飲み、
「ち、近くって……」
「ヴィーキュラーガナンダレと共にいる」
「なにそれ」
思わずそう云ったが、バンリカーが後ろから、
「魔神を崇める密林エルフのことだ」
「エルフと一緒にいるの!?」
「そうだ」
べジャンが、短く答える。
「どうして?」
「わからない」
そりゃそうだ……と思い、フローゼが顔をしかめた。聴くほうが悪い。
「急げ」
べジャンが続けてそう云い、フローゼの表情が引き締まった。
「私の接近に気づいている……?」
「わからない。けど、ガナンを去ろうとしている」
「ありがとう。それだけ分かれば、じゅうぶん。本当に助かる」
ピタリと呪文がやみ、べジャンも一瞬で正気に戻った。
フローゼが、すっくと立ちあがった。
「行くのか」
バンリカーの父親が座ったままフローゼを見あげて、そう云った。
「ええ。案内できる人はいる?」
「いない。奥地は魔神の土地で、エルフがいる。殺される」
「わかった。ありがとう」
再度フローゼは謝意を示し、バンリカーの家を出た。
魔術師ランゲンマンハルゲンは、世界で初めて人間と魔族の融合に成功した半魔族で、人間と魔族の融合研究の第一人者だった。かつては、帝国を代表する魔導魔術都市国家マーラルの魔導研究機関に所属し、自らもその実験で半魔族と化した最初の完全成功例である。
もっとも、その研究の副産物とでもいうべき、とある物質のほうに組織が興味を示したので、本人は組織を抜けた。なお、その後に原因不明の理由で都市国家は滅んだ。
それからランゲンマンハルゲン博士は帝国中を旅し、融合研究を続ける一方で、実験を兼ねつつ、その成果としての人間と魔族の融合依頼を行ってきた。
そう……。
生まれたばかりのノロマンドル公女と、魔族を融合させたのを含めて。
博士は、いま、エルフと魔族の融合の依頼を受け、はるばる帝国の外の人外地まで来ていたのだ。
依頼したのは、魔神ゾールンの意を受けた、ヴィーキュラーガナンダレ密林エルフの族長である。
ゾールンは、この自身を封じる結界を弱めるか破壊する……あるいはそのための研究を行うに足る、高魔力で空間制御と亜空間作業に適した「超人」を生み出そうとしていたのだ。
「よく来られた」




