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第14章「きおく」 4-10 大密林と魔獣使い

 ドゥヌスの人込みから少し歩くと、唐突に町が途切れた。草ぼうぼうの荒れ地が広がっており、やや遠くに濃い緑の線が見えた。地平線が、緑に縁取られている。


 「まさか、あれが!?」

 「コレルヂだ」

 (あれがぜんぶ、森か……)


 フローゼは感嘆したが、訪れたことのあるチィコーザ東部の大森林地帯も、ああいう感じだった。ただ、この大密林コレルヂは、面積的にはチィコーザ王国の森林地帯の40倍もある。いま、地平線を緑の線で覆っている森の入り口も、ほんの一端なのだ。


 フローゼは感覚的にそれを感じ、身震いした。



 昼少し前にドゥヌスを出て、2人は夕刻前には森に到達した。


 だいたい、草原から森に至るには、まばらに木々が増えていって、次第に森になってゆくものだが、この土地は平原からいきなりジャングルになっていた。


 しかも、まさに道なき道だ。休憩もなしにバンリカーは動物のように木々の合間や草の中を長い杖を持って器用に進むが、フローゼは少し苦労した。フローゼですらこうなのだから、通常の帝国の冒険者では、相当に難儀するだろう。


 「すごいところだなあ」


 思わず、口に出しだ。目印も何もなく、方向も何もわからない。頭上は木々が密生し星も見えそうにない。自分の位置が、まったく分からない。しかも、フローゼは感じないが、温度と湿度がとんでもない。


 (これは、迷う……)


 しかも、水も無ければ、食べられそうな動物もいない。鳥や獣の声はすれども姿が無い。完全に密林に隠れて、かなり訓練された眼でないと見つけられないのである。


 その眼を、バンリカーは持っているのだろう。また、魔術師というからには、何か生活に役立つ術を会得しているのかもしれない。


 「バンリカー、ちょっと待って! ちゃんと案内して!」


 どんどん先を行くバンリカーに、思わずフローゼが叫んだ。ナイフだけとって、フローゼを置き去りにするつもりか。


 ま、ナイフなんかどうでもいいし、いざとなれば魔力探知装置を使うので、どうとでもなるのだが……。


 「バンリカー!?」


 そのフローゼの目の前に、突如として中型の名も知らぬゲドルが現れたので、びっくりしてフローゼが腰に手をやった。


 しかし、その四つ足の小型の馬みたいな竜、大きな目玉の首をかしげ、そこらの草葉を器用に舌でむしって食べ始めた。草食の竜だ。


 そして、もっしゃもっしゃと咀嚼しながら、フローゼをふり返りふり返り、森を歩き始めた。


 それが、バンリカーの行った先と同じだったので、

 (え、まさか……?)

 フローゼ、無言で、竜について進んだ。


 そのまま歩き続け、日もくれてきたころ、忽然と密林に小川が流れており、バンリカーが既に火を起こして何やら魚を焼いていた。


 「…………」

 唖然として、フローゼがその光景を見やった。

 用事を終えた竜が、何処かに消えた。

 「もしかして、あのゲドルはバンリカーが?」

 「そうだ」

 「この魚も?」

 「そう」

 「もしかして、魔法?」

 「そうだ」

 「どんな魔法!?」

 「魔獣を使う魔法」

 無表情で、バンリカーがそう云った。

 (魔獣使いか……!!)

 フローゼが息を飲んだ。聞いたことはあったが、眼にするのは初めてだった。 

 「水」


 バンリカーがぶっきらぼう・・・・・・にそう云い、薄暗くなりかけている森で小川を指し示した。


 「あ、ああ……ありがと」


 別に飲まなくてもよいが、謝意を示し、水筒に水を入れなおした。薄く濁っており、帝国人……いや、ラヴァランの人間ですら、飲んだら一撃で腹を壊すのは確実だ。


 「魚」

 「ありがとう」


 よく見たら、焼いているというか、大きな葉を丸めたものを鍋がわりに直火にかけ、小魚をまとめて蒸し焼きにしている。それを少し冷まし、バンリカーは指先でつかんで、骨や内臓ごと豪快に食べた。

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