第14章「きおく」 4-6 砂丘を越えて
だが、フローゼは油断しなかった。
どこか、視線を感じていたからだ。
(魔法で隠れてる……?)
そうも思ったが、そこまでするほど価値のある品を運んでいるようにも思えなかったので、よく周囲を観察するにとどめた。
そんなフローゼの様子を見て、護衛兵の1人、
「なにか、気がかりなことが?」
「うーん……」
フローゼは軽く唸りながら、
「私はこの砂漠を超えるのは初めてなので、この感覚が間違っているのかどうかが分からないんだけど……視線が、ずっと離れないんだよね」
「視線が……?」
「これまで、魔法で隠れていた盗賊が襲ってきたことは?」
「話には聞いたことはあるが、この隊商の護衛では、経験したことはないな」
「なくはないんだ?」
「でも、よほどの大盗賊団だ。云っちゃあ悪いが、この規模の隊商でそこまでするかどうか……」
「魔術師を雇うのも安くないし……こんな過酷な環境で賊として働く魔術師も、そうはいない……か……。じゃあ、なんだろう?」
フローゼに、一般的な魔力を感知する能力はない。そもそも、魔術師だとしても、敵の魔力や術を感知できるのは相当な高レベルだった。
とはいえ、フローゼの感覚は正しかった。
我々で云う、偵察用ドローンのような魔法の鳥に、彼らは監視されていたのである。
比較的大規模な盗賊団が、点在する各オアシスに配置しているのだ。
ヤマを張ったオアシスに隊商が現れなかった場合、他のオアシスの情報を得る。
そうしていま、フローゼたちは発見されたのだった。
「どういう状況なのか分かんないけど、襲撃を予想してほうがいいと思う」
「いつだ」
「だから、分かんないって……あんたたちのほうが、どういう状況で襲ってくるか分かってるんじゃないの?」
「確かに……たいてい、夜か薄暮だ。商人たちに伝えよう」
「よろしく」
その日から、一行は臨戦態勢になった。
魔法の鳥はヒヨドリほどの大きさで、1匹が執拗に隊商を追尾した。小さいし、けして近づきすぎなかったので、隊商の誰にも把握されなかった。
2日めの、強烈な太陽が砂の地平線に沈みかける真っ赤な時間帯……。
盗賊たちは、砂丘を越えていきなり出現した。
「来たぞ!」
走砂竜にまたがり、弓や曲刀で武装した20人もの盗賊たちが砂煙を上げて疾走し、隊商に迫った。
(規模が大きいな!)
降りそそぐ矢のなか、意外にこの隊商は金目のものを運んでいるのだろうかとフローゼは思い、冷静に全体を把握する。
こういう場合、ハデに襲って敵を引きつけた反対方向からの挟撃が常套だ。
もっとも、たかが盗賊団がそこまでするかという疑問も残る。
フローゼは、正面は護衛兵に任せ、襲撃方向の反対側に陣取って隊商の退避を補佐した。
「急いで、もっとこの大きいのを走らせて!」
「これ以上は無理です!」
「もっと走れるんじゃないの!?」
「荷物が崩れちまう!」
そういうことか、とフローゼが舌を打つ。
5人の護衛兵は戦闘部族らしく見事に走砂竜を操って奮戦し、何人もの盗賊を撃退、あるいは下がらせたが、多勢に無勢で、6騎が隊商の最後尾に迫った。
無言でフローゼが竜を走らせ、吶喊!
腰の刀を抜きはらって右手に構えた。
とたん、刀身より焔が噴きあがり、火炎剣となって夕陽に染まる砂漠に映えた。
「!!」
盗賊ども、見慣れぬ内地の女剣士が帯同しているとは思っていたが、まさか魔法剣を所有するほどの強者とは想像しておらず、少なからず驚いてしり込みした。
だが、戦いもせずに逃げたとあっては頭目に弁明することもできず、1人が竜上から矢を打ちかけ、フローゼが左右に避けながら走るそのタイミングに合わせて次々に3人が片手曲刀を振りあげてぶつかった。
フローゼ、1人目の斬撃をかわしながら炎撃一閃! 盗賊の右腕を切り飛ばす。2人目もギリギリで矢をかわしつつ、そのまま正面からぶつかると見せかけて見事な竜さばきで方向を変え、賊の向かって右に回りこむやその左脇腹へ水平斬りに刀を食いこませた。
賊が炎にまみれつつ、絶叫とはらわたをぶちまけて砂におちる。




