第3章「うらぎり」 1-8 ギュムンデは、滅亡しました
「そのトルネーグスは、ストラさんが倒した奴の、前の前のヤツです」
これは、フューヴァだ。
「前の前……そんなに昔だったかな」
ピアーダが、腕を組んで首を傾げた。
「と、云うことは、最近、一位になったのか?」
「ええ、つい先日」
「では、ギュムンデと連絡が取れなくなった理由を知っているか?」
ギョッ、とフューヴァとプランタンタンが顔をひきつらせた。
それを冷たい眼で見やって、ピアーダ将軍、
「フランベルツ主要六都市は、常に地方伯のおられるガニュメデから定期連絡用の魔術の使いが来るのだ。カラスとか、小竜とか、ハトとか……空を飛ぶものが多い。ところが、ギュムンデからなんの返信が無くなって、もう十日以上たつという。……いま、調査隊が向かっているが……なにやら、異変があったには違いない。雷が重なったような音は、ここでも聞こえた。何があったか、知らないか?」
分かりやすく汗を大量にかいて、プランタンタンとフューヴァが動揺する。
「ギュムンデは、滅亡しました」
いきなりストラがそう云ったので、プランタンタンとフューヴァ、息も止まってストラを凝視。ピアーダも目を丸くして、
「なん……めっ、滅亡しただとォ!?」
「はい。我々は、寸でのところで、脱出に成功したのです」
「い、いったい、何があったのだ!?」
「はい。魔族が関係しておりました」
「ま、まっま、魔族うウ!?」
思わず、ピアーダが机に両手をついて席を立つ。
「魔族が、どうして……!?」
機械めいて、ストラが返答。
「ギュムンデを裏から支配し、地方伯閣下の統治を外れていた三つの非合法組織が魔族を引きこみ、ギュムンデの地下迷宮に魔族の巣窟を構築。それぞれ非合法な魔法的薬物の製造実験、非合法取得金品の秘匿、当然非合法な戦闘兵器としての魔物の製造実験を行っておりました。私は、地方伯閣下の派遣した潜入工作員へ協力し、その実態を探っておりました。しかし、件の魔族による無理な魔法的実験の数々が破綻し、魔力及び魔術式暴走を起こし、都市が崩壊したと推察します」
「…………!?!?!?」
ピアーダはもちろん、プランタンタンやフューヴァ、それにペートリューまで酒瓶を抱えたまま固まりついてストラを凝視した。
「そ……それで、貴女は、間一髪で脱出に成功したと……!!」
「はい」
「ううむ……!」
汗を拭き、ピアーダが唸る。
「……本当なのか?」
フューヴァが、プランタンタンへ耳打ちした。
「知らねえでやんす」
「だよな」
もう、なんでもいいからストラに合わせるしかない。
「い、いまの真実は、地方伯閣下へ報告させてもらってもよいかね?」
「はい」
「うむ……うむ……」
ピアーダがうなずきながら何やら考えを巡らせて、ニヤニヤしはじめた。
「完全に信じてるでやんす」
「黙ってろ」
フューヴァが、プランタンタンを肘で小突いた。
そこでピアーダがパン、と手を叩き、
「その素晴らしい情報をもたらしてくれただけでも特別報酬に値するが、フィッシャーデアーデ総合一位が傭兵として我が麾下に入ったとなれば、実戦での活躍はもとより、士気が違うよ、士気が。そうだな……月額報酬は、三倍の1,500ではどうかね?」
「いい……」
「おおそれながらもうしあげやす」
ストラを遮り、煙が出そうなほどの超絶高速揉み手でプランタンタンが割って入った。
「なにかね」
「あっしら従者は、月に500でももったいねえくれえでやんすが、こちらのストラの旦那は、かのフィッシャーデアーデで、ひと試合二万も三万も稼いでいたんでさあ。1,500っちゅうのは、ちょいと……」
「そうは云っても、傭兵は賭け試合とは違うからね」
プランタンタンが額をピシャリ、と叩き、
「ごもっともでやんす! せめて、せめて……5,000に」
 




