第14章「きおく」 3-11 御嬢様
グラルンシャーンは、自身を排除しようとする罪だけではとても極刑には処せないので、このような冤罪を作り上げたのだった。またそれによって、グラルンシャーンを怒らせると、どのような罪を覆いかぶせられるかを暗に示していた。
ラサンクールの牧場はグラルンシャーンに接収され、ラサンクールは死罪。後日、広場で竜騎兵に首を刎ねられた。
さらに、死体はバラバラにされて竜のエサにされた。
ラサンクールの妻のラートスプリーンは、出身の部族の助命嘆願もあり命は助かったが奴隷階級に身分を落とされ、里を追放。ゲーデル山岳エルフに売られた。
娘は、まだ幼かったので、グラルンシャーンの牧場で奴隷となった。
3人のラサンクールの牧場の使用人も、連帯責任で奴隷となった。
「こいつらが、あたらしい御仲間でやんすか?」
「そうだ、この4人だ」
グラルンシャーンの広大な牧場の隅に、奴隷の住み暮らす小屋があった。掘っ立て小屋と云うか、ゲーデル山羊の飼育小屋よりボロい。既に16人の奴隷が無休無報酬で働いている。牧場仕事の奴隷が12人と、家の仕事を行う奴隷が4人だった。そこには、牧場仕事の12人が住んでいた。
奴隷頭の中年の男性エルフが、4人を受領する。
「ガキが1人と、男が3人でやんすか……何やら、先日処刑されたところの?」
「なんでもいい! 仕事を教えろ。怠けると、お前が責任を取らせられるんだぞ!」
グラルンシャーンの牧場で働く使用人、そう云って威圧的に鞭で空を鳴らした。奴隷頭やほかの奴隷がビクビクと身を震わせ、
「わ、分かっておりやすよ! 御任せくだせえ!」
使用人が行ってしまうと、奴隷頭、急に目を吊り上げ、
「お前たち、なめえは!?」
「……」
4人が委縮して黙っていると、いきなり奴隷頭がそこらの棒をひっつかみ、使用人の1人をしたたか打ち据えた。
「痛い……!!」
「何をするんですか!」
「ちゃんとしゃべれるでやんす。なめえは? と聞かれたら、なめえを云うんでやんす。奴隷でなくたって、わかることでやんす」
仕方もなく、順に、
「……コ、コールブンゲだ」
「……ルイノサルンです……」
「ハールノートル」
最後に、ラサンクールの娘が消えるように、
「プランタンタン……」
と、ささやいた。
「聴こえねえでやんす!!」
汚れ切った風体の奴隷頭が唾を飛ばして凄み、プランタンタンは泣き出した。
「御嬢様に何を……!」
コールブンゲが怒りを見せ、他の2人もプランタンタンを庇ったが、奴隷頭がまた棒を振り上げて叩くそぶりを見せたので、身をすくめて黙った。
「おじょうさまだあ!? ヘッ、恨むのなら、父親を恨むでやんす! 女だろうと、ガキだろうと、ここに配属されたからにゃあ、御山羊様の世話を覚えてもらわねえと飯はねえでやんす! それから! お前たちも、元おじょうさまを庇ってる余裕なんかねえでやんすよ! むしろ、誰のせいでこうなったか……元おじょうさまに、たっぷりと教えてやるのを勧めるでやんす! キィーーーーェッッヒッーーーッヒヒッヒッヒッヒッヒ……!!」
奴隷頭が折れた前歯を見せてそう妙な笑い声を発すると、ボロをひっかぶってうずくまっていた他の奴隷たちも、めいめい妙な笑い声をあげた。とたん、口臭なのだか体臭なのだか分からぬ汚臭がたちこめ、4人は口や鼻をおさえた。
「あと、奴隷のおきてで、言葉遣いはわしらみてえにするでやんす。嫌でもそうしねえと、痛い眼を見るだけでやんすよ。これは、忠告でやんす」
この、妙な奴言葉のようなものは、云わばゲーデル牧場エルフの階級語であった。身なりもそうだが、言語から階級を分かるようにするためだ。たとえ逃亡し、身なりを整えても、染みついた話し方ですぐわかるのである。
4人は小屋の中に寝る場所を与えられず、また面積的に実際4人が加わる余裕もなく、しばらく野外で生活した。誰か死ねば、その場所が4人のうちの誰かのものとなる。
プランタンタンは力仕事をさせようにも甚だしく非効率なのは誰にでも理解できたことなので、水汲みや山羊たちの世話や山羊小屋の掃除に終始した。他の3人は、草刈りや大工仕事、土木作業に従事した。
しかし、新参の奴隷はみなのストレス解消のはけ口になるし、労働は押しつけられるし、食事も満足に与えられないしで、5年のうちにコールブンゲが酷死し、10年後にルイノサインが発狂して自殺した。




