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第14章「きおく」 2-15 ストラの現れる3年前

 ふり返りざま、ガドナンがゴハールめがけて再び火炎を噴きつけたが、ゴハールの鎧はガドナンの装甲と同じ対魔性能を持ち、その粘りつく炎を、蓮の葉が水をはじくように完璧にはじいた。


 「うおぉおおおお!」

 そのまま、横殴りにハンマーを叩きつける。

 狙うのは、ゴハールの曲刀が関節に突き刺さったままの腰部だった。


 ガドナンも同時にゴハールへ血まみれの右手を振り下ろしたが、漆黒の円楯で受け流す。


 しかし、ガドナンも左手でハンマーを押さえつけて止めた。

 (……!!)


 ゴハール、流石に肝を冷やしたが、偶然にもハンマーの風圧が曲刀を根本まで押しこんだ。


 刀の魔力が何らかの効果を及ぼしたものか……ガドナンが急に動きを弱め、ガックリと片膝をついた。


 (いまだ!!!!)


 ゴハールが円楯を投げ捨て、大ハンマーを両手で持つと大上段に振りかざし、杭でも打つように滅茶苦茶にガドナンを打ち据えた。


 そのたびにガドナンの身体が地面に叩きつけられ、また風圧で風が周囲に砕けた石畳の破片をばらまいた。


 「こなくそ、こなくそ! ……こなくそがあ!!」


 ついに装甲にヒビが入り、体液めいた魔力が漏れ散る。まるで、油圧機械から真っ黒いオイルが吹き出ているようだった。


 ガドナン、格段に動きが鈍り、ガクガクと痙攣するように震えるだけとなった。

 「……とっとと……つぶれろ!!」


 最後の一撃が打ちこまれ、その衝撃が、胸の辺りにある魔力中枢器官をついに破壊した。


 ドッとガドナンがうつ伏せに横たわり、吹き出た体液も瞬時に乾燥してサラサラな粉塵となって散り始めた。そのまま、装甲甲殻も崩れ、一気に砂山のようになる。


 「ゴハールが生き残ったあああああーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 銅鑼が連打され、ゴハールの勝利が宣言された。

 


 「いかがでした、魔王様」


 闇闘技場から出て、深夜のギュムンデのメイン通りをそぞろ歩きながら、ターリーンが訪ねた。


 「必死さが、なかなか良かったぞ」

 「左様で」

 研究の成果を少しは褒められると思っていたターリーンは、やや拍子抜けした。


 それから、2人はしばし無言で表通りを歩ていたが、やがて街はずれまで来ると、


 「戻る」

 レミンハウエルがそう云うや、次元転送で消えてしまった。

 フィーデ山に帰ったのだ。

 相変わらずの気まぐれに、ターリーンが人間のように大きなため息をついた。



 ストラの現れる3年前のことである。




 3.グラルンシャーンの記憶

 

 ストラの現れる、75年前。


 ゲーデル山の中腹、高原地帯に住まうゲーデル牧場エルフは、ゲーデル山羊という希少生物を飼育し、主に毛織物を人間やほかのエルフに売って生活している。エルフという亜人種は基本、自給自足なので、ゲーデル山羊の織物を売って外貨を稼いでいるのは、珍しかった。


 しかも、その毛織物がまた高価なのだ。


 もう500年近くもゲーデル牧場エルフの筆頭酋長を務めているグラルンシャーンという人物が、エルフにしてはとても珍しく強欲かつ狡猾で、ゲーデル牧場エルフの他酋長名家を全て従え、また婚姻関係を結んで親戚にし、大酋長などと呼ばれている。


 ゲーデルエルフの筆頭酋長は王ではなく、本来は5つの各酋長名家のリーダー的存在だった。過去には、酋長名家以外の人物が酋長になった例もある。


 それが、云わば総酋長としてすっかり絶対王政を確立し、いま、金銭でも権威でも武力でも、ゲーデル牧場エルフでグラルンシャーンに逆らえる人物は、1人もいない。


 グラルンシャーンの他に、副酋長のような役割で2人の若い酋長がおり、3人で2000人ほどの牧場エルフを取り仕切っていた。


 その2人の副酋長の他に、実質、グラルンシャーンに次ぐナンバー2の牧場を経営しているのが、ラサンクールという若いエルフであった。若いと云っても、エルフなので388歳だが、人間年齢で云うと30代半ばと云ったところだった。


 この若者、グラルンシャーンの一族で、甥の子にあたる。甥であるラサンクールの父親は既に亡くなっており、引き継いだ牧場をこの100年ほどで倍にした。ゲーデル山羊の飼育と牧場経営に辣腕をふるい、次期大酋長との噂も高かった。じっさい、もうラサンクールに媚びを売る勢力もあり、グラルンシャーンと2人の副酋長にとって無視できない存在であった。まして、ラサンクールの取り巻きに反グラルンシャーンの面々が集まっていたとあっては、なおさらだった。

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