第3章「うらぎり」 1-6 傭兵契約
「敵の間者の疑いで死罪だ」
「しゃあないでやんすねえ……」
そこでフューヴァがプランタンタンの肩を掴み、
「おい、待て。契約するつもりか? アタシは、傭兵なんてできないぞ!」
「あっしだって、できねえでやんす」
まして、出入り口近くに佇んで、髪もボサボサ、着ているものも薄汚れ、舐めるように酒瓶をチビチビ傾けているペートリューに至っては……だ。
「ま、どうとでもなりまさあ」
「本気かよ、お前……」
そこで、担当者のおやじが助け船。
「まあ待て、アンタたち。傭兵ったって、部隊だからな。何も全員が、必ずガチャガチャやらなきゃならないってもんでもない。その人は……元から登録しようとしていた剣士だから、いいとして……そっちの人は……魔法使いか? まあ……一応、そういうことにして……魔法使いの傭兵も当然いる。アンタ、エルフなら森の中で斥候とかできるだろ。アンタだって、スラブライエンと前線の伝令係とか、なんでも仕事がある。補給・炊事係だって重要な役割だぞ。メシが食えないんじゃ、戦闘も何もあったもんじゃないからな。何も、全員が戦闘員ってわけじゃないよ」
「へえ……」
プランタンタンは感心したが、フューヴァは顔をしかめている。ホントかよ、という思いだ。
「じゃあ、そういうことなら……」
「プランタンタン!」
「大丈夫でやんすよお、旦那がついていなさるんですから。それに、契約しないのならお尋ね者だっちゅうんでやんすから、仕方もねえことで」
「そういうことだ、諦めろ」
おやじがそう云ってサインを促す。プランタンタンはギュムンデの滞在中にリーストーンと共通のフランベルツ語の字を覚え、名前くらいなら書けるようになっていた。ストラも、学習済みだ。プランタンタン、ストラとサインし、
「ペートリューさん、ここに名前を書いてくだせえ!」
「え?」
「名前でやんす!」
「書いたら、お酒が飲めるの?」
「飲み放題でさあ」
「書く書く!」
ペートリューが書面も碌に見ずにサラサラとサインしたので、フューヴァは心の底から呆れた。
「おまえさあ……」
「え? なに? お酒飲めないの?」
「もういいぜ……」
最後に、渋々ながらフューヴァもサインした。
「よし、これで正式にアンタ達はフランベルツ地方伯スラブライエン方面軍の傭兵だ。よろしくな」
おやじは書類を仕舞いこみ、それぞれ銀貨を5枚、計15枚用意した。
「ハイ、前金で一人500」
いまさら銀貨5枚など、小銭みたいなものだ。カウンター越しに四人が受け取って、無造作にポケットへ突っこんだ。
「豪気だな、アンタたち」
おやじが笑う。
「じゃあさっそく、市庁舎に行って指示をもらってくれ。傭兵隊の作戦本部があるから」
「住むところは、どうすればいいんで?」
「それも本部で聴いてくれ。作戦によるから」
「さいでやんすか……あの」
「なんだ」
「ウマと荷馬車を処分したいんでやんすが……」
「軍で引き取ってくれると思うよ。軍需物資は、いくらあっても足りないからな。それも……」
「作戦本部で聴くでやんす」
「そうしてくれ」
四人は登録所を出て、荷馬車へ乗った。ところで、
「市役所って、どっちでやんす?」
手綱を取るプランタンタンが、荷台を振り返ってつぶやいた。
「知らないよ」
フューヴァが、口をとがらせて答えた。市内をくまなく三次元探査済みのストラが教えようとしたとき、
「おい、お前ら!」
五人ほどの兵士の一団が、声をかけてきた。その中の、隊長と思わしき身なりの壮年の人物が前に出て、
「新しく傭兵登録した者か?」




