第14章「きおく」 2-13 1対3のデスマッチ
「あれが、ガドナンか」
「左様で」
「見たことあるぞ。でも、あれは少し小さいな」
フィーデ山の洞窟深部に棲息しているガドナンは体高が3メートル以上あるので、ひと回り小型の印象を魔王に与えた。
「通常個体では、操作のための魔力が多く必要で……いまのところは、あの連中の手に負えるのはあの程度です」
ターリーンの説明に、
「なるほどな」
レミンハウエルがうなずいた。
「では、無制限生き残り勝負、開始致します!!!!」
豪快に大銅鑼が鳴り、1対3のデスマッチが始まった。
もっともこの3人、連携する気は毛頭ないし、ギャブィラに至っては連携できる知能が無い。ゴハールとサリュフォは、言葉が通じない。命懸けの戦闘の中で、どう連携できるか、そもそも連携するのかが見ものだし、賭けの重要なファクターだ。
サリュフォとゴハールが様子見のなか、真っ先に飛び出たのはギャブィラで、眼にもとまらぬ速さでガドナンにとびかかった。
が、なんとガドナンのほうが速い。
右手の棒状武器……というか、本当に長さ1メートルほど、太さ数センチの純粋な捻じり鉄棒をギャブィラに叩きつけた。
獣じみた反射神経で、ギャブィラが身をひねってそれを避け、そのまま横転する。
同時に、ゴハールとサリュフォが動く。
ただし、両者は超高速化魔法を利用しているわけではなく、通常の動きだ。実戦ならいざしらず、興行で超高速化は観客からよく見えないので、たいへんに不評なのである。
ただし、ガドナンは生体能力として瞬間風速的ながら準超高速化魔法ほどの動きを有している。
2人とも魔法の防具で軽量化の大鎧を装着しており、防御力抜群ながら、バルサ材か段ボールほどの重量しか感じない。武器もそうだ。ゴハールの大サーベルも、サリュフォの大ハンマーも、見た目の1/10ほどの重量しかない。それを大重量物のように扱い、攻撃力を発揮させるのにもまた細かい技術を要し、ただ殴りつければよいというものではない。この2人、重量級とはいえ、けして力任せではなかった。また、そうでなくてはけして1位や2位はとれない。
ゴハールとサリュフォが自然と二手に分かれ、ガドナンを挟み撃ちにする。
動きを止めたガドナンが昆虫めいた感覚で3人を同時に把握し、どこから対応しようか細かく首を振った。
言葉が通じずとも、ゴハールとサリュフォは同じことを考えていた。ギャブィラはそもそも動物並みの知能しかないのだから、これを正面からけしかけ、ガドナンを背後や横より襲う。
だが、やはり即興の連携では、そううまく進まぬ。
ギャブィラが正面からガドナンに向かわず、吠えたてながらも下がってゴハールの後ろに回った。
「なに……!」
驚いたのはゴハールだ。本能なのか知能なのか判断がつかず、ガドナンが迷わずゴハールに向かったので、正面からぶつかる。
ガドナンの眼にもとまらぬ鉄棒の打撃を円楯で流し受け、サーベルを叩きつけた。
このサーベルも攻撃力+60効果が付与されており、勇者級の武器だったが、ガドナンの生体装甲はそれを弾き返した。
と、云っても、この特殊な漆黒のサーベルもターリーンが製作したものだ。本当にマッチポンプというか、武器や兵器の実戦試験なのだ。
「ガドナンの生体装甲は元々強力ですが、さらに表面に特殊な魔力の被膜があり、それが天然の対魔力効果装甲になっております。それを応用したのが、あの黒騎士の大鎧です! また、あの大きな曲刀もガドナンの刺と同じく、刃の部分に魔力の被膜を! それらがぶつかり合って、果たしてどうなるものか……!」
ターリーンが興奮して、魔力通話ながら早口にまくし立てたが、レミンハウエル、
「そうだな」
と、そっけない。
確かに、魔王にしてみれば児戯にも等しいことで虫たちが一喜一憂しているだけだ。そういうことに特別な好奇心が無ければ、そうなる。なんでもいいから、帝都の皇帝騎士や特任教授に匹敵する戦闘力の魔物を兵器として量産化したい。興味は、それだけだ。結果だけが興味だった。こんな過程の性能試験は、マジでどうでもよかった。
だが、ターリーンは主の塩対応にも気づかず、興奮して自らの仕事の成果を凝視した。
互いの打撃にあまり効果が無いと察したガドナンとゴハール、しかし、それでも鉄棒を振りあげ、また楯で受けてサーベルをふるい、それが甲殻に防がれるという凄まじい攻防を繰り返した。この攻防の中で、互いに隙を見出すしかない。
が、いまは3対1だ。




