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第14章「きおく」 2-12 特別な相手

 「おい、この乱痴気騒ぎの何が面白いんだ?」

 レミンハウエルが、素で聴いた。

 「さあ」

 ターリーンも素で答える。

 「早く、そのガドナンを見に行こう」

 「こちらです」


 入場料を払い、とうぜん賭けはせず、まっすぐ会場へ向かう。特等席を買ったので、真正面の良く見える席だった。


 やがて時間になり、魔法の道具マジック・アイテムの拡声器を持った審判兼司会が現れ、また口上。


 「えーー~!! 御来場の皆々様!! 本日は、誠に特別な一戦で御座います!! 我がフィッシャーデアーデの誇る重量級第1位から3位までの選ばれし猛者の中の猛者たちが、世にも凶悪的な怪物を相手に死闘を繰り広げます!! 果たして、普段から死闘を演じている3人はどう戦うのか! 協力し合うのか! 各個、挑むのか! その機微も、見もので御座います!!」


 (あの拡声器は、私が作ったものじゃない……フィッシャルディアが、どこからか仕入れたものだ。私に云えば、もっと高性能のものを作ったのに……)


 ターリーンがそう考えていると、「特別な相手ガドナン」に挑む哀れな実験相手……今日の挑戦者が登場した。


 「フィッシャーデアーデ重量級第1位から3位までの猛者たち」だ。

 「まずは第3位! ニデル人ニデラスタのギャブィラ!!」


 2メートルほどの身長に、かなり大柄で筋肉質な人物が人気プロレスラーめいて颯爽と現れ、歓声が驚いた。その頭部が、サーベルタイガーに近い長い牙の大型ネコ科のような動物のものだった。マスクではない。本物の動物の頭だ。獣人の一種で、ニデル人である。獣人類は南方大陸に多く住み、魔物の一種であるが、ゲドルと同じく魔物は魔物でもいわゆるモンスター類だ。些少は天然の魔力を有し、かつ使うが、完全に魔力に依存している生物であるところの魔物とは、まったく異なる。


 ギャブィラが両腕を掲げてポーズをつけながら何やら叫び、かつ吠えた。

 「あいつも、お前が?」

 レミンハウエルが、魔力通話で尋ねた。


 「そうです! 獣人の改造はかなりうまくいったのですが、どうしても調教して操らなくてはならず、意のままにというわけには……それで、魔物の改良に方針を変更したのです」


 「ふうん」


 「残っている改造獣人も、少なくなりました。ガドナンの性能実験相手がせいぜいでしょう」


 「そうか」

 魔力通話でそう語っている間にも、次が登場する。

 「続きまして重量級第2位! 黒騎士ゴハール!」


 大歓声と共に現れたのは、カブトムシの怪物めいた姿のごつごつした最重量級の全身黒色鎧に身を包んだ、円楯と大きなサーベルを持った大柄な戦士だった。まともな人間があんな鎧を着たならば歩くのはおろか、立っているのも困難だと思われるが、魔法の鎧であり、軽量化か浮遊の術により、自在かつ俊敏に行動できる。


 「……あの鎧も、私が開発したものです」

 「ふうん」


 「ガドナンの生体装甲を応用し、かなりの対魔法効果を持っています。もちろん、対衝撃効果もかなりあります」


 「そのようだな」

 「そして重量級第1位!! 突風のサリュフォ!!」


 大歓声と共に最後に登場したのは、これもぶ厚そうな全身鈍色の特殊な鎧に身を包んだ。身長2メートル20~30センチはありそうな大男だった。その姿も異様だが、身長より長い柄で、頭部の大きさが80センチはあろう巨大なハンマーを持っている。ハンマー使いだ。


 「あの者は、私は関与しておりません。あの鎧や大槌も、私は知りません」

 「なかなかの攻撃力のようだな」


 レミンハウエルが、魔法の武器である巨大ハンマーに興味を示した。ノーマルで、攻撃力付与効果+50以上はあるだろう。他にも、特殊能力があるに違いない。勇者級の武器だ。


 もっとも、+50やそこらでは、魔王には何の効果もないが。

 (なかなか、おれを追いこむ・・・・ような強者はいない……)


 レミンハウエルは、しみじみとそう思った。正直、魔王を喧伝して帝国中から猛者を集めれば、もっと伝説の勇者のような、それこそ魔王にとって代わるような強者が続々と現れると思っていた。


 「そしてえええーーーーーッッ! この3名が命を懸けて挑むのが、フィーデ山の奥地に棲息しているという驚異の怪物だあああーーーーーッッ!!!!」


 歓声と響動どよめきがわきあがり、人々が瞠目する。

 「ガドナンの、初御披露目です」


 ターリーンが少し誇らし気に云い、正門から舞台に現れたのは黒騎士をさらに大きくしたような体高が2メートル半はあるバケモノで、まさに外骨格を有する昆虫人間か無骨な重戦闘ロボめいた姿の怪物だった。右手には、黒い棒のようなものを持っている。

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