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第14章「きおく」 2-10 ゴミ掃除

 これ以上、居座られると、組織でも上のほうから「ゴミ掃除人」が現れるところだったが……いや、きっとあの2人がそうなのだろう、と裏通りの人々は思った。何故なら、2人の歩いたあとに、通りのゴミ・・がゴロゴロと転がっている。文字通り、死屍累々だ。


 「ヘッ、後片付けは面倒だが、少しはさっぱり・・・・すらあ」


 誰かがそう吐きすてた。明るくなったら台車を用意し、下っ端やガキどもを集め、死体を回収して荒野にでも捨ててこなくては。冬だったら凍りついて少しは死体も保存されるが、初夏のいまごろは少しでも放置するとすぐ腐る。あの人数だ、腐るのは荒野でお願いしたい。


 生贄めいてペートリューを魔力で吊り上げたまま、レミンハウエルは細い路地に入った。浮浪者や訳の分からぬ動物がたむろ・・・していたが、微かな明かりに浮かびあがるその異様な光景を認識できるものはあわてて逃げた。が、既に意識も朦朧とするほど酒や薬に溺れていたものは、レミハウエルの視線だけで高濃度魔力線を浴び、死んだ。


 なお。そんな視線を先ほどからずっと浴び続けて、ペートリューは死んでいない。


 「酒をよこせ」


 ターリーンが、そこらで適当に買ってきたワインの小樽を魔力で持ち上げた。我々の単位で云うと、5リットルほど入るものだ。


 「おい、ほら、酒だぞ」


 まるでペットにおやつ・・・でも与えるかのような声色で、魔王が酒樽をペートリューの目の前にぶら下げる。


 「おさけぇえ!」


 ペートリューがぶら下がったままそれを両手で持ち、かじりついてコルク栓をもぎとるや口をつけてがぶ飲みした。


 そのまま一気に半分近くも飲んでしまってから、ようやく我に返ったペートリュー、


 「す、すみません、どこの何方か存じませんが……有難う御座います」

 「こいつ、飲んだら普通になったぞ!」

 レミンハウエルが、とびきりの珍獣を見たような感想をターリーンに述べた。

 「そうですね」

 ターリーンは、一切の興味が無かった。


 「おい、お前は、どうしてそんなに酒を飲んで平気なんだ? 特殊な魔力のせいか?」


 「え?」

 ペートリューは、レミンハウエルの云っている意味が分からなかった。


 常人の10倍以上飲んでも平気という自覚も、妙な潜在魔力があるという自覚もなかったからだ。


 「いや……」

 「まだ飲むか? 貨幣をやろうか?」

 「え……いいんですか?」

 「いいぞ」


 宙づりのまま、レミンハウエルが餌でもやるように出した何枚かの金貨を、ペートリューが受けって魔術師ローブの内側へしまった。


 「で、どうしてだ? どうしてお前は人間なのにそんなに酒に強い?」

 「いや……その……さあ」

 「ふうん」

 レミンハウエルが、急激に興味をなくした。

 その機を逃さず、ターリーン、

 「さあ、もうよろしいでしょう。このようなやつ……逃がして・・・・おしまいなされ」

 「そうだな」


 ペートリューが、地面に落ちた。ワインの小樽を落としかけて、しっかりと抱えた。


 「ほら、逃げろ。行け」

 ターリーンがそう云い、さらに訳の分からないペートリュー、

 「……へ、へへ、どうも……」

 といい、酒樽を持ったまま路地を小走りで行ってしまった。


 なお、ペートリューはこの金でさらに酒を買いつつ、残った額でかろうじて師ランゼの用事を果たし、数日後にリーストーンに戻ったのであった。


 「魔王様、このような酔狂は、良い加減で……」

 「分かってるよ」

 ターリーンの苦言に、レミンハウエルが意外に真面目な調子で答えた。

 「どうして、人間の街などを見聞するのですか?」

 「興味があるんだ」


 それはターリーンにも理解できたが、どうして、何の興味があるのか、分からなかった。レミンハウエルのことだから、その奥があると思った。


 「それ以外に、何か理由が?」

 「あるよ」

 「それは、どのような?」


 そこでレミンハウエルがターリーンにふり返り、小首をかしげてニヤリと魔王の笑みを浮かべ、


 「面白いやつがいれば、おれに挑ませるし、おれの戦闘力が上がるような傑物を見出せるかもしれないだろう? この街には、そういうやつが集まるんだろう?」

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