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第14章「きおく」 2-6 さらに、地下

 ターリーンがどこからともなく頑丈な竜革の袋を出し、ズシャリという重い音と共にローブ姿に無造作に渡した。ローブ姿が急いで結び目をほどいてその口を開け、ランタンの薄明りの下で黄金色を確認する。


 「ゥヘヘェッ! 確かに!」


 フランベルツ金貨で4000トンプ……金貨8枚を受け取り、うやうやしく袋を返した。


 「ヘヘェ! 御ゆっくり……」

 重い扉が開き、2人が中に入る。


 中はさらにランタンのぼんやりとした明かりに加え、淡い魔法照明が人魂めいてふわふわと漂っていた。


 (あれは……私が作って、レーハーに売ったやつだ)

 ターリーンがそう思って、なんとも云えぬ表情かおになった。

 (あんな適当に作ったものを、魔王様に見られるとは……)

 しかし、レミンハウエルは浮遊照明には特段の興味を示さなかった。

 内心、ターリーンがホッとしていると、

 「いらっしゃいませ。御ふたかた……」


 この部屋の管理人と思わしき高級ローブ姿が現れたが、魔術師であることが潜在魔力で分かった。その魔術師が、


 「よほど名のある魔術師にして、地位のある方と御見受けいたします。いかがですが……こんな部屋では、御満足頂けますまい。さらに、地下が御座いますが……」


 「ふうん……」


 レミンハウエルが魔力でザッと部屋を探査する。狭い個室があり、潜在魔力に作用する強烈な魔薬におぼれる人間が、巣穴に潜む大型両生類のように横たわっている。


 「いくらなんだ?」


 「入室料に御ひとり様5000トンプで御座います。しかし、その価値は御座いますよ……」


 「無何有ミレドか?」

 「おっほ! ほほ……話が御早い」

 「本物か?」

 「ザンダルより、高額で仕入れて御座います。間違いは御座いませぬ」

 「無何有ミレドは、いくらなんだ?」

 「1回の御使用で、1000トンプで御座います」

 「いいだろう」


 「ほっほっ、おっほほう! 流石で御座います。さ……どうぞ、どうぞこちらに」


 高級ローブが2人を案内し、その部屋の隅の階段からさらに地下へ降りる。行きついた先に両開きの鉄のは護衛はおらず、その代わり細身の竜人ゲドラムめいた魔像シャルプが2体いた。


 (この魔像シャルプも、私が作ったものだ……しかし、これは我ながらよくできたものだ。魔王様もおほめ・・・に……)


 ターリーンはそう思ったが、レミンハウエルはやはり何の興味も示さず、

 「おい」

 「あ……ははっ」


 ターリーンがやや不満を覚えつつ再び金貨の詰まった袋を出し、高級ローブが2人で10000トンプ……金貨20枚を受け取った。


 「有難う御座います」


 そして高級ローブが開錠の呪文を唱えると、重々しく鉄の扉が自動で開いた。また、扉の上に彫られた竜の彫刻の眼が赤く光った。


 これは、入室する者を自動的に探査する魔法の道具だったが、これもターリーンが作ってレーハーに納めたものだったので、適当にごまかして素通りした。まさか、ここで魔族と知られるのも面倒だ。


 中は完全な魔法照明に照らされ、装飾用のシャンデリアもあった。まるで王宮のように清潔で豪奢、かつ誰もいなかった。VIPルームなのだ。特別な顧客しか入ることは許されない。


 「こちらに御座りを。いま、御飲み物を……」

 「いらん。それより、無何有ミレドを」

 ターリーンが、さらに金貨を2000トンプ渡す。

 「畏まりました」


 高級ローブが裏へ引っこみ、やがて純銀の盆に純銀の小皿を2つ乗せ、その小皿の上に小さな氷砂糖のような薄茶色の結晶がそれぞれ乗ったものを持って静かに現れた。


 「どうぞ、無何有ミレドです」


 これが? とターリーンは思った。レミンハウエルは、胡散臭そうに、うやうやしく卓に置かれたそれ・・を見下ろした。


 「ザンダルでは、これを蒸留水に溶かし、飲むそうですが……如何なされますか?」


 高級ローブが云うや、レミンハウエルが小皿を手に取り、べろり・・・と舐めた。

 ターリーンがアッと思い、また高級ローブが、

 「オッホ! これは豪快……」

 と、眼を細めた。

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