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第14章「きおく」 2-5 とびきりの魔薬

 「もちろんだ。しかし……例のあの都市・・・・・・が滅んでより……無何有ミレドもすっかり見なくなったと思っていたが……?」


 そのレミンハウエルの言葉に、ローブ姿が嬉しそうに。


 「さすが旦那! よく御存じで……この何年かで、復活されたそうですよ……ヒヒ……それがようやく、このギュムンデまで」


 「信じられないな」


 レミンハウエルは、まだ都市国家マーラルが存在していた時代を知っていた。とうぜん、本物の無何有ミレドも知っているし、マーラルが滅んだ理由も、誰がどうやって滅ぼしたかも知っていた。


 (無楽仙人様が、復活させるわけも無し。……何者かが、次元漂流するマーラルを発見した? そんなことは、不可能だ……考えられるとしたら……生き残った魔導士どもが、どこかで復活のための研究を続けていて、いよいよその成果物がここ・・まで辿り着いたということか……)


 俄然、興味を示したレミンハウエル、

 「見てみたい。貨幣に糸目はつけないぞ!」

 「そうこなくっちゃあ! ささ、こちらで御座いますです!」


 ローブの男が腰を低くし、レミンハウエルが後に続いたので、ターリーンも嘆息しつつそれに習う。


 ターリーン、さっそく魔力通話。

 「魔王様、ミレド……とは?」


 「魔薬だよ、とびきり・・・・のな。都市国家マーラルに存在した、魔導結社は知っているか?」


 「いいえ……」

 「知らないか。お前は若いからな」

 「申し訳も御座りませぬ」

 ちなみに、ターリーンは150歳ほどである。

 「その魔薬を、何者かが復活させた、と?」


 「おそらく、不可能だと思うよ。それほどのシロモノだ。とんだ偽物か、かなりの粗悪品だとは思うが、それでも、復活させたとしたら大したものだ」


 「なるほど……何かに、使えるかもしれませんな」

 「そうだな」


 さらにちなみに、魔族には魔薬が効果ない。神経も何もないし、脳すらないのだから、物理的に薬物が作用のしようが無いのだ。ただ、魔導的な理論で魔力に作用し、魔力を変質せしめるので、


 「モノによっては、喰うとうまい・・・

 「へえ……」

 ターリーンも、少し興味がわいてきた。

 「魔王様は、喰ったことがおありで?」

 「もちろんだ」

 「どうでした?」


 「この世のものとは思えんうまさ・・・だった……ような気がする。ずいぶん前のことだし、一度きりだったからな」


 「なるほど」

 「まあちょっと、試してみようじゃないか」

 「畏まりました」

 「これ・・だから、この街に来るのは止められんよ」

 


 魔王とこの街を影より支配する魔族が連れてこられたのは、レーハー直営の魔薬窟であった。


 魔薬は魔術師でなくば作れない類の魔導薬物で、帝国では例外なく違法だ。


 薬草の一種の麻薬(大麻ではないが、似たような作用なので便宜上こう標記する。また、キノコ類を含む。)は、魔法に関するものでもあるので種類によっては合法だが、あまりに強力で依存性の高い物は違法である。


 もっとも、我々で云う科学的な合成麻薬のない世界であるので、そこまで強力なものは少なからず魔術師の手が入っており、魔薬に分類される。


 部屋中に濛々たる独特にして強烈な香りの煙が充満し、既に何十人もの人間が折り重なるように夢見心地で横たわっている。煙草という植物が無いのでこの世界ではタバコが存在しないのだが、やはり似たような香草の類の煙を吸う文化習慣は存在する。その乾燥させた香草類に麻薬や魔薬を混ぜる部類の吸引部屋だ。また、ここは、比較的安価な薬の使用部屋でもある。


 「ヒヒッ……こちらで御座います」

 ローブ姿が、その部屋の隅を通り、2人を地下に案内した。

 階段を下り、ランタンの光の下で屈強な護衛が護る扉に到着した。


 「ここから先は、本当に特別な御方しか入れません。まずは、入室料で御ひとり様2000トンプかかります」


 法外にもほどがある値段だったが、レミンハウエル、

 「おい」

 「畏まりました」

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