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第14章「きおく」 2-2 表の客ではない

 レミンハウエルは、魔王号を冠してまだ400年ほどであり、そのころよりヴィヒヴァルン王国との盟約で、強大な魔力でフィーデ山の噴火を抑える代わりに暇つぶしや自身の戦闘力強化のために「生贄」を捧げられている。つまり、火山の噴火を抑えるのが仕事かもしれない。


 なんにせよ、そのため、ヴィヒヴァルンでは魔王退治の喧伝をし、強力な勇者を送りこんでレミンハウエルと戦わせていた。レミンハウエウルがこうして生きているということはつまり、全戦全勝ということなのだが……。


 「ここ数十年は特に弱い。つまらない。ヒマつぶしにならないし、おれの戦闘力向上になんら寄与していない。ヴァルベゲルの怠慢だ。ゆるせんね!」


 「そうですか」

 だったら、直接ヴィヒヴァルン王にそう云えばよいのである。

 それが……。


 (どうして、私の研究を邪魔するのだろう。自分で私に魔導兵器の開発を命じておいて……)


 ターリーンは、心の底から理解できなかったし、それが、好奇心に向かえばまだよいのだが、何の関心もなかった。


 (たまったものではない)

 ターリーンが無表情でそう感じていると、

 「今日は、特に賑わっているな。なにか催しでもあるのか?」

 「え? いや……さあ」

 「おまえ、ギュムンデに滞在しているくせに、知らないのか」

 「知りませんよ……人間とは、ほとんど関わりを持っておりませんので」


 じっさい、ターリーンはこのようなレミンハウエルの御供以外で、地上に出ることは滅多に無い。例外は、新しい魔導兵器をフィッシャルディアに引き渡す際や、ケガ(破損)をしたその魔物を引き取る際にフィッシャーデアーデの会場に行くくらいだった。


 「ふうん……」


 レミンハウエルは生返事で、松明や大きなランタンの街路灯、建物の軒に飾られた吊りランタンの光に照らされるギュムンデの通りを見やった。歓楽街兼暗黒街の独特の雰囲気と、そこに蟲のように集う様々な人間たちの様子が、どういうわけかレミンハウエウルの好奇心を非常にくすぐる・・・・のだ。


 「見ているだけで飽きない。毎日来てもいいくらいだが……盟約もあるしな」

 「はい」


 2人のかっこうは、フランベルツではあまり観ない柄の珍しいローブを着た魔術師といった風で、しかもどう見ても豪華なローブを着ている主人がキョロキョロして見るからに観光客だったので、当たり前だが客引きが殺到する。


 「旦那、御忍びで御遊びですかい!? 若くていい娘がたんまりいまっせ!」


 「旦那、そっちの店は口ばっかりで、10歳はサバ読んでまさあ! こっちは正真正銘、全員が10代ですよ!!」


 「旦那、女遊びにゃまだ早い時分でしょう! その前に、こっちで賭け札遊びなんざいかがでしょう!?」


 「賭け双六や矢場なんかもありまっせ!」


 「旦那、あと半刻ほどで、今日のトリが始まりまっせえ! 今日は、つい先月総合部門で第1位になったばっかりのシャラマイが、初防衛に挑みます! どうぞ、フィッシャーデアーデに! 送迎もありますよ!」


 「旦那、酒と料理のほうですかい!? うちの店は、御忍びで各国の貴族や王族も来る最高級の料理店です! ぜひ、御越しを!!」


 レミンハウエルはニコニコしながらそれらを聴いていたが、ターリーンが、

 「旦那様は、そんなものに興味はないんだ! あっちへ行け!」


 それは、断りの常套文句だったので、客引きどもも引き下がらなかった。それらに興味のない奴が、ギュムンデに来るはずがない。


 しかしターリーン、


 「本当に、そんなもののために来たんじゃない! とっとと散れッ! さもないと、どうなるか分からないぞ!」


 客引きども、少し、顔色を変えた。

 つまり……表の客ではない・・・・・・・ということになる。

 「いやっ、こりゃ、失礼いたしやした!」

 などと愛想笑いで、いっせいに散るが、内心は、

 (じゃあ、さいしょからそっち・・・へ行きやがれってんだ!)

 と、苦々しく舌を打つ。

 そっち・・・というのは、裏通りのことだ。


 レストランは別にして、売春や賭博に関しても、ここは(一応)フランベルツ家によって認められている範囲の公認店が並ぶ、表通りなのである。


 裏通りは、町の中心部に近いところにある。

 とはいえ、表通りの店だって、ギュムンデを牛耳る3組織の系列店ばかりだ。

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