第14章「きおく」 1-15 ストラの現れる1012年前
心の奥底を見抜かれ、仙人……マーラルは感心すると同時に、異世界・異文明人であるタケマ=ミヅカやロンボーン、玄冬ら異次元の力を見てみたい欲求にかられた。
(そもそも、異世界の存在であるだろう竜魔皇神ゾールンを倒すとしたら……この世界以外の力しかないのかもしれん……)
常々、そう考えていたからだ。
「ま……まあ、試しに、しばらくあんたたちに同行してみるのは、悪くない。……かもな」
「では決まりだ! ここは保留にし、とっとと次の魔王を倒しに行くぞ!」
云うが、ロンボーンが杖を振ってせかせかと歩き出した。
「おい、待てや! おい! ……なんであのジイさんは、すげえ長生きしてるくせにあんなに短気なんだよ!?」
イヴァールガルが、そう叫びながらあわてて後を追った。
それまでいっさい無言だったゴルダーイも、いつもの苦笑を浮かべてそれに続く。
その時には、玄冬は既に消えていた。
「タケマ=ミヅカ様あ、私たちも参りましょう」
ブーランジュウがそう云ったが、仙人が分身を用意しているところだった。
はるか後年、帝都リューゼンの「無楽堂」で店番をしていた、あの少年であった。
「頼んだぞ、滅多に現れんと思うが、ここに到達するのは冒険者だけではない。勘違いした妙な魔族も、時おり現れる。すぐに知らせるのだぞ」
「御任せください」
「あの庵は、好きに使え」
「畏まりました」
にこやかにそう答え、少年は手を振って一行を見送った。
歩きながら、マーラル仙人、
「タケマ=ミヅカよ、そうは云っても、あのゾールンとかいうやつは本当におかしい。あんたたちと同等の力を持つものが、最低でもあと2、3人は欲しい。いや……多ければ多いほどいいがね」
タケマ=ミヅカは苦笑しながら、
「身共らほどの力を持ったものが、そうそうおるとは思えんが喃」
「10人も20人もいたら苦労はないが、探せばあと2人やそこらはいるだろうさ」
「そうさ喃」
タケマ=ミヅカは、楽観視はしていなかったが、確かにあと1人や2人は、マーラルのような隠れた人物が現れると思っていた。
もっとも、この後に道士譚鳳麗を加えた8人で挑んでも、ゾールンは倒せなかったのだが……その代わり、タケマ=ミヅカは黒シンバルベリルとの三重合魔魂という秘儀を行うヒントを、その戦いの中で得た。
いつ誰が作ったのか、マーラルやロンボーンですら分からない古代のゾールンの隠し神殿を後にし、秋晴れの大地を一行は進んだ。
ストラの現れる1012年前のことである。
2.レミンハウエルの記憶
フィーデ山の火の魔王レミンハウエルの命令で、フランベルツの高名な歓楽都市ギュムンデに魔族ターリーンが派遣されてから既に80年が経っている。
目的は、魔物を改良して人間(の、魔術師)でも容易に扱える「生体魔導兵器」を開発することであった。
結論を急ぐと、80年も経って大した成果を上げていないのだが……なにぶん前例のない研究だったし、自分たちでも寿命がどれほどなのかよくわからない魔族と人間では時間の感覚も異なるし、ターリーンが1人でコツコツやっているしで、どうしてもそうなった。
ギュムンデは25年ほど前より、レーハー、フィッシャルディア、ギーランデルという3つの組織がこの狭い街をそれぞれ分割統治するような恰好になっている。
これは、ギュムンデにフランベルツ伯爵家の力が及ばず、ほぼ都市国家のように半自治となっているため、縄張り争いを調定する者がいないためである。
その点、ギュムンデより規模が大きいのに、九つの牙という大権力を持つ1つの組織が全てを牛耳っている帝都のザンダルと異なる。ザンダルでは、最上部に皇帝がおり、皇帝騎士や特任教授という強大な即戦力があって、そことつながりのある組織が全てを支配する。
とはいえ、レーハーは売春と魔薬を含む違法薬物、フィッシャルディアが闇の闘技場、ギーランデルがマネロンを含めた闇金融と、それぞれシノギを分け合い、また分け合うだけのキャパがあった。
ターリーンは魔導兵器を開発しているのだから、闇闘技場を経営するフィッシャルディアと最もつながりが深く、それ以外の2つとは、それほど関わっていなかった。なぜなら、ターリーンは研究で開発・改造した魔物を闘技場で性能試験しているのだ。




