第14章「きおく」 1-14 こいつ
「御主は世捨て人ゆえ、そのようなことを平気でぬかす。しかし、現実の世に生きる人々はな、なかなかそうはゆかぬのよ」
「だからって、具体的に何をどうしようっていうのかね」
「それを探す旅でもあるのさ」
「呑気なんだか、切迫してるんだか、よく分からん話だな」
仙人は嘆息しつつ、巨大な神殿を見あげて、
「そうは云っても、ここのヤツには、迂闊に手を出すな。おそらく、あんたたちでも倒せんよ」
「多次元封印されている分体のうちの、1つだからか?」
仙人が、目を丸くしてタケマ=ミヅカを凝視した。
「なんで、分かるんだ?」
「そう云う御主は、どうしてそれを知っている? そして、なぜ御主がそれを監視しているのだ?」
仙人は顔をしかめた。
「質問に質問で答えるヤツは、碌な奴じゃない」
「御主に云われたくないわ」
そこへ、イラついたロンボーンが杖を振り上げて割って入った。
「ここで、無意味なハラの探り合いをしている場合ではない! 仙人よ、浄限の勇者は古クールプールラーン神の神託を受けて動いておる!」
それを聞いて、仙人が目を丸くして、
「へえ」
と、云った。
「あの、山神の」
「そうだ。おまえさんは、この世がどうなろうともはや知ったことではないかもしれんが、古代の神もそんなことは望んでおらんのだ!」
「神の御意思っていうわけかい……」
仙人が、また大嘆息と共に「まいったね」とでもいうようにバリバリと頭を掻きながら、
「いいか……大地の摂理で大地が亡ぶのは、仕方のないことだ。この世は、いつか滅ぶもんだ。永遠などというものは、存在しない。だが、この邪神が蘇って世界を亡ぼすのは、大地の摂理じゃない。こいつの意思だ。分かるだろ」
タケマ=ミヅカが口をへの字に曲げ、
「まあ……分からんでもないが喃」
「せっかく、大昔の何処かの大いなる誰かがバラバラにして封印してくれたのを、わざわざ起こすなと云ってるだけだ」
「まるで、タケマ=ミヅカ様じゃ倒せないみたいな云い方、納得できないなあ」
ブーランジュウが静かにして大いなる怒りをこめ、顔面のシンバルベリルに恐るべき魔力を集中させた。
仙人を含め、一行の誰も驚きも恐れもしなかったが、タケマ=ミヅカが、
「待て待て、ブーランジュウよ」
「でもお」
「倒せぬにしても、もう少し弱らせるくらいは挑戦させてほしいものだが」
「弱らせる? こいつを?」
「その云い様では、御主は戦ったことが?」
仙人が、そこで初めて苦々しい顔つきとなった。
「……恥ずかしながら、300年ほど前にな。手も足もでんかったよ。それ以降、アホやマヌケが余計なことをせんよう、ここで見張っておる」
「300年もか!」
「そうだ」
「気の長い話だ喃」
タケマ=ミヅカが、そう云って目を細めた。
「うるさいな! あんたたちはこいつをよく知らないから、そんな余裕をぶっこいていられるんだ!」
「ここにいる全員をもってしても、か?」
「……」
仙人が、玄冬も含めてゆっくりと全員を見渡し、
「え、私も入っているのかね?」
「当然だ」
「あんたたちの実力もよく分からんのに……軽々に答えられんね」
「では、いったんここは置いておき、仙人は我らと共に旅をして、我らの実力をその目で確かめればよいだろう」
やおらロンボーンがそう云い、他の者たちもうなずいた。仙人は少しだけ息を飲み、
「馬鹿をぬかすな。ここの見張りはどうするんだ」
「御主ほどの力があれば、分身でも何でも置いておいて、いざとなれば次元操作で急行すればよかろうさ」
タケマ=ミヅカに云われ、仙人も少し心が動いた。なぜなら、
「御主とて、いつか再挑戦したくて、ここで機を伺っておったのだろう?」
「う……む……」




