第14章「きおく」 1-11 理解が早い
「『神』というものが多次元的に存在する何らかの意思的なものと定義すると、こういう世界だ、そんなものが実際に存在するのかもしれん。意思である以上、疎通が可能な場合も考えられる。タケマ=ミヅカ殿よ、確か、最初からその神託とやらによって世界を救う大業の旅をしていると聴いていたが……詳細は聴いていなかった。作り話だと思っていたからな。その神託、どういう内容なのだ?」
タケマ=ミヅカも、単に「世界を救う」という話のほうが原住民には分かりやすいと思って詳細は秘していた。しかし、今のロンボーンの話で、
(なるほど喃……他に類を見ない、妙ちくりんな姿をしていると思ってはいたが、こやつも……同類だったか)
そう判断し、
「実際に観測したわけではないので、身共にも具体的なものは提示できん。あくまで、類推の域を出ん。しかし、この世界の現状を鑑みるに、おそらくそれは、本当だ」
「ほう……」
「この世界に満ちる魔力は、宇宙全体に満ちておる。知っておるだろう?」
タケマ=ミヅカが、ニヤッと笑って背の高いロンボーンを見あげ、ロンボーンも同じような笑みを浮かべた。
「もちろんだ」
「太陽系規模の、魔力の流れ……大河のようなものが存在することは?」
「もちろん知っている」
「その流れが、時に大蛇行し、不運な星々を吞みこむことは?」
「観測されておる」
「ならば、話は早い。その蛇行に、この星が呑みこまれかけておるということよ」
「待て。そうと仮定して、理論的な速度ではない。例えそうだとして、数億年から数十億年単位の話だぞ。ともすれば、太陽が赤色矮星になるよりも時間がかかる話だ。銀河の衝突ほどではないがな……御主の話では、なんとかしないと百年と経たずに世界が亡ぶような勢いではないか。現状、観た限りとてもそうは思えん」
「そこが、身共にも不思議なところだが……この世界……太陽系が、大蛇行に急速に引き寄せられているらしい」
「引き寄せられているだと!?」
「そうらしい」
「急速に!?」
「少なくとも、数千年から数百年単位でな」
「バカな!」
「ドルムは、その影響で滅んだそうだ。御主であれば、魔力濃度の急激な上昇を、観測してきたのであろう」
ロンボーンが黙った。その通りだ。理論的に考えて、速くても数百万年、遅ければ数億年単位での影響が、数千年から下手をすれば数百年で現れている。それは、とてつもない影響を世界に与えている。
「大変な稀少現象か……あるいは、次元陥没か何かが関係しているのだろう。なんにせよ、まさに天文学的な確率で発生しているのだろうな」
(なるほど……次元的かつ加速度的に滑りこんでいるのか……?)
ロンボーンは顔をしかめ、眼をつむった。
(そんな場所に、ヤマハルは漂着していたのか……!!)
そうして大嘆息をし、
「……で、何をどうしたら、その魔力大河との惑星規模の衝突を、避けられるのだ?」
「それは、誰にも分からんのよ」
「だ、ろうな」
「理解が早い喃」
「分かってたまるものか、そんなもの。神にすら分かるまいよ」
ロンボーン、
(こんなところ、とっとと逃げるに限るわ)
そう思い、ヤマハル再起動の目標をより強固なものとした。
「とにかくいまは、世界中の魔王やら魔族やらをひたすら駆逐し、魔力の均衡を保つ。その果てに……何をどうしたら世界を救えるのか……それを探す旅でもある」
「その道しるべが、神託か」
「とっくに引退した古き神ゆえ、時々身共を導くのが精一杯らしい」
「どこの何という神なのだ?」
「古代ドルム帝国を支えていた、クールプールラーン神だ」
(あの、巨大な山か……)
ロンボーン、何度もその山を見たことがあったし、古代ドルム人が篤く信仰していたのも思い出した。しかし、まさかあの山がそんな……本当に意思を持っていて、神として神託だの預言だのを行っていたとは、想像もしていなかった。
「なにがなんだか分からねえがよお!!」
イヴァールガルの大声に、ロンボーンも我に返る。いまの2人の会話は、2人以外にはチンプンカンプンだった。




