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第14章「きおく」 1-3 最辺境のムラ

 タケマ=ミヅカの決定に、顔をしかめてあからさまに舌を打ったのはロンボーンだったが、いまさら急ぐ旅でもなく、タケマ=ミヅカの機嫌を損ねても面倒だったので、黙って従う。


 荒野を歩いて、集落に近づくと、一行に気づく人が現れた。


 既に、ブーランジュウは余計なトラブルを回避するため、人間に変化している。いつもの、背の高い軽装甲の女戦士だ。茶金髪で、堀の深い顔立ちをしていた。この時代の魔族は、例えばオネランノタルなどとは人々の受け捕らえ方が根本から異なる。その姿を見ただけで、恐慌で死ぬ者もいるほどだ。例外なく、まさに悪鬼のように恐れられている。


 「……!」


 何かしら柴のような荷物を抱えていた農夫の妻と思しき草臥くたびれきった中年女性が一行を見やるや顔を引きつらせて息を飲み、転げるように集落に戻った。


 「大丈夫……ですかね」


 苦笑しながら、ゴルダーイがか細い声を発した。一行を、魔物の群れとでも思ったのだろうか。


 「私、ちゃんと人間に見えてるよねえ?」

 ブーランジュウも、思わずそう尋ねる。

 「見えてますよ」

 ゴルダーイに云われ、

 「じゃあ、大丈夫だ。なにをあんなに驚いてるんだろう?」


 「四の五の云ってないで、行ってみりゃあいいじゃねえか!! たまの客人だから驚いてるんだろうさ!」


 云うが、イヴァールガルがガハガハと笑いながら、大股で村に向かう。タケマ=ミヅカも続き、ブチブチ云いながらロンボーン、最後にブーランジュウとゴルダーイが歩いた。


 村は、ざっと100人ほどが住んでいそうな規模の寒村で、一行が現れたほうとは反対側にささやかな畑があった。


 様子を見渡してロンボーン、

 「タケマ=ミヅカ殿……ここは、独立した集落と思われるか?」


 「孤立した……というならそうだろうが、そもそもここ・・は、どこの国だ? こやつらは、どこに税を納めておる?」


 「ここいらに、国などないはずだが」

 ロンボーンが断言し、タケマ=ミヅカも眼を細めた。

 「なるほどのう……」


 「なんでもいいじゃねえか! 困ったことが無いか、聞いてみようぜ!! 役にたったら、食いもんでも分けてくれるかもしれねえだろう!?」


 イヴァールガルの能天気な大声が、閑散とした集落に響く。

 「そんな、余分な食糧があるようには見えんが……どれ」

 なんだかんだとロンボーンが杖を掲げて、魔力で何かしらを探る。

 「これは……当たり・・・かもしれん。異様な魔力だ」

 「魔物が潜んでおると?」

 ニヤッと笑うタケマ=ミヅカの問いに、ふり返ってロンボーン、

 「左様。しかし、詳細は分からんな。かなりうまく澱みに潜んでおる様子……」


 「魔物がいるのなら、退治せねばならん。村人が、望むのであれば……だが」

 「望むにきまってるだろう!」

 イヴァールガルが、不思議そうに声を張り上げた。

 「そう・・とも限らんよ……ま、村長でも探すとしよう」

 ロンボーンが、歩き始めた。

 一行が村を観察しながら、後に続く。


 無人のようで、家の中や路地の角から、一行を見つめる目が光っていた。一行はそんな目には慣れっこだったが、


 (なんか、妙だな……)

 という違和感は、ほぼ全員が感じていた。


 この時代の村人の衣服は、帝国時代よりずっと原始的で、田舎ではほぼ貫頭衣に近い。建物も、ほぼ掘っ立て小屋だ。そもそも、こんな場所にまとまって人が住んでいるとは思えない。それほどの辺境だった。


 (もしかしたら、石器時代・・・・には、獲物を追って古代人が流れてきていたのかもしれんが……)


 そこまで考え、ふと、この世界の者に・・・・・・・「石器時代」などという単語は通じないのを思い出し、苦笑してタケマ=ミヅカが眼を細めた。


 そんな辺境であるから、とうぜん言葉も通じないだろう。しかし、ロンボーンの言語調整魔法があった。もっとも、調整のために少し会話が必要である。


 その会話をするための村人らが家に閉じこもって出てこないのでは、コミュニケーションのやり取りも難しい。


 「訪問者も少ないでしょうし、警戒するのは当然でしょう。タケマ=ミヅカ様、やはり、ここは大人しく立ち去ったほうがよろしいのではないでしょうか」


 少女の割に大人びた発言をするゴルダーイに、タケマ=ミヅカは、


 「では、この異様な魔力の根源だけ探り、村人らとはかかわりあわずに先を急ぐとしよう」


 そう判断した。

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