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第14章「きおく」 1-2 魔王様御一行

 西方の衣服を改造した重ね着に、東方の竜鞣革の部分鎧を付け、腰には独特の片刃刀を腰帯に差している。竜革と云ってもかなり特別な魔法効果があり、防御力は+3000だ。その剣も見た目は地味でも伝説の神剣であり、攻撃力は+5000である。もっともそこまでゆけば、もはや数字に意味は無い。


 そう、巷では勇者で通しているが、既にこの世界に7人いる魔王の半分以上を倒している、浄限の魔王タケマ=ミヅカであった。


 彼らは、魔王様御一行なのだ。


 この時代、世界に満ちる魔力はずっと濃く、従って魔物や魔族が数倍も強力だった。


 半面、人間やエルフの使う魔法の効果や魔法武器の威力も、数倍から数十倍だった。


 そのため、人間やエルフは、絶滅を免れていた。

 古代からの争いは頂点を極め、人々は殺伐とした空気の中で生きていた。


 街道とも云えぬ荒野を踏破し、旅をするなどということは、バーレン=リューズ帝国成立後の世界の数百倍も困難だったと云えよう。


 そんな世界を、この老爺はたった1人で既に数十周はしているという。

 老爺は、仮の姿だからだ。

 「覚えておらんよ」


 ロンボーンはぶっきらぼうにそう云うと、ねじくれた木の杖をさも大儀そうに操って、斜面を登り続けた。やろうと思えば、魔族よりも上手に飛翔もできれば、一瞬で転送もできるのに。


 タケマ=ミヅカは、後に精神体アストラル・ボディとなって世界を旅するが、このロンボーンの姿がヒントとなった。


 扇状地の緩い斜面から山に入ると、完全に道が無くなった。


 「さらに北上し、東に向かう。大平原があって、次の魔王と、それを監視する仙人がいるらしい」


 夜営で、タケマ=ミヅカがそう説明した。

 「仙人!?」


 みな、素っ頓狂な声をあげた。この中で、仙人を知っているのはロンボーンだけだったが、それでも知識として知っているだけで、見たことは無い。もっとも、ロンボーン自身がすでに仙人級の存在であったが。


 「仙人が、魔王を見張ってるの? どういう意味い?」


 不気味に赤く光るシンバルベリルの埋まった顔をかしげ、ブーランジュウが尋ねた。


 バリバリと炙り干し肉をかじってイヴァールガル、

 「それほど手強い魔王なんだろ!? ミヅカ」

 「封印されているらしいのだ」

 「誰が封印したんだよ!?」

 「知らんわ」

 「物知りジイさんは、知らねえのか!?」


 ブーランジュウは自然界に濃厚に満ちている魔力を食うので、人間の食べ物は食べない。また既に2500歳を数え、精神体アストラル・ボディに移行しているロンボーンも、飲まず食わずで平気である。ここでも、座って焚火を見つめているだけだったが、


 「知らん」

 忌々し気にそう答えた。 


 ロンボーンは、別に世界を救う大業のための魔王退治に共感してタケマ=ミヅカに付き従っているわけではない。他に、自分だけの大きな目標があり、そのためにタケマ=ミヅカに付き従うのが役に立つと判断しているだけだ。


 (黒色のシンバルベリル……その製法だけでも、なんとか……)

 その一心だった。


 その目的が一体何なのか、黒色シンバルベリルを得て何をしようというのかは、メンバーの誰も知らない。が、読者諸氏は、既に第9章で御存じであろう。


 後世、帝都街道の通るその山あいも、この時代はまさに深山幽谷。魔物がウヨウヨしていたし、この時代は魔力濃度が濃く、魔物の強さや大きさもケタ違い。繰り返すが、人々は殺伐とした生と死のはざま・・・で、なんとか魔法にすがって生きていた。また、魔法は本来そのため・・・・に生まれた。


 一行は探検隊めいて道なき道を突き進み、山を抜けて広大な荒野に出た。

 後の、メンゲラルク諸州連合の隅のほうになる。

 この時代は、完全に無人地帯だった。

 チラホラと人が住み始めるのは、帝都ができてからになる。

 それなの、に……。


 「集落があるぞお!!」

 荒野を吹きすさぶ風に、イヴァールガルの声が響いた。

 百戦錬磨の魔王一行、

 「そんなわけあるか」


 と思ったが、たまに、本当に人知れぬ辺境集落が魔物にたかられている・・・・・・・場合があるので、無視もできぬ。


 「ま、いちおう、立ち寄ってみよう」

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