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第13章「ていと」 7-7 逆に、押し返された

 確かに、前代未聞、数百年ぶりである特大の「怪物ども」を追い返すことに成功した皇帝騎士や特任教授たちも、喜ぶべきであったが、


 (あの英雄・・は、いったい……)

 (どこの何方どなたであったものか……)

 その思いがぬぐえず、素直に喜べなかった。

 「へ……陛下、畏れながら申し上げます」」

 「なんだ」

 「ほ……本当に、よろしかったのでしょうや……」

 「何がだ!」

 ふり返った皇帝は、笑顔が一転、額に青筋を浮かべていた。

 それを見やって、騎士の1人は発言を引っこめ、黙したが、騎士隊長の1人が、


 「陛下、あの御方は、いったいどこの何方様で御座りましょうや! あれほどの力……ただの魔法戦士では御座りませぬ!」


 皇帝は鼻息も荒く、

 「あの者も怪物だと申したはず。この世のものではない」

 「で、ですが!」


 「おまえたちも、あの恐るべき力を見ただろう! あれほどの力が、この世界をウロウロしていてよいはずがないではないか!」


 「……!!」


 いきり立つ皇帝を見下ろし、騎士隊長もこうべを垂れて黙った。隊長は思わず周囲の特任教授たちを見やったが、皇帝は魔術師協会の会長でもある。皇帝がそう云うのであれば、教授陣も何も云えぬ。


 「さあ、後始末だ。人を呼べ。まだ息のある者には、回復魔法を!」


 確かに、大広間に残された仲間の遺体も片付けなくてはならないし、生存者も、探さなくては。あの謎の光弾攻撃で破壊された後も生々しく残っている。


 後で分かったことだが、皇帝騎士の1/4が死傷、特任教授も2割近くが死んだ。


 何より、騎士団長が戦死、副団長も重傷を負ったのが大きい。ストラが来るまで、最前で戦っていた。


 欠員は、急ぎ、補充しなくてはならない。あのクラスの「怪物」が連続して現れない保証は、どこにもないのだ。


 皇帝の命に従い、皆が動き始めたその時、皇帝が大柄なエルフたちの合間の陰に隠れて見えなかった小柄な人物に目を止めた。


 青筋が、増えた。

 「……貴様が、なぜここにいる……!!」

 ストラであった・・・・・・・

 「わああ!!」


 すぐそばにいた特任教授の若い女性が、素で驚いてそう叫んだので、皆がふり返って一様に驚く。


 「……びっくりしたあ……!」


 胸に手をあてて目を丸くし、戦闘により茶髪も乱れ、立派なローブも焼け焦げているそのエリート女性魔術師は、何の気配も魔力もないストラを凝視した。


 生きていたというより、どうやって反魔魂マルトより逃れたのか、みな理解が追いつかなかった。


 だが、騎士の1人が笑顔で、

 「御無事でしたか!!」

 と、叫……ぼうとして、怒りに青ざめる皇帝に気づいて黙った。

 「なぜ、ここにいる」

 皇帝が、死刑宣告よりも冷酷無比な声で、もう一度ストラに問うた。

 ストラは表情も変えず、また微動だにせずに、


 「あの法は、元居た世界に強制的に押し戻す効果のはず」

 「そうだ」

 「あそこは、私がいた世界ではありません。逆に、押し返された模様」

 「ほぉおう……」

 皇帝が目をむき、自分より小柄なストラを見下ろした。

 「では、次は貴様を貴様の世界に戻すとしよう」


 「私としては、それでもかまいません。この世界に私がいる理由は、ありません」


 「そうか」

 皇帝はもう、ストラから視線を外し、

 「……必ず、貴様を元居た世界に叩き返してくれる!」


 さすがにこの状況で二連続の反魔魂マルトは無理であったし、ストラがおとなしく術にかかるかどうかも分からない。


 「そうですか」

 ストラもそう云うや、次元窓を開き、消えた。

 そこで騎士や教授陣が皇帝に群がり、

 「陛下!」

 「陛下、いまの御方は……!」

 「いったい、何方どなた様で……!」

 「陛下……!!」

 もみくちゃにされて皇帝がよろめき、

 「た、たわけが! あれこそが天下を騒がす、異次元魔王ぞ!!」

 「えええッ……!!」

 一同が驚愕し、目を丸くする。


 (主に皇帝から)大魔神メシャルナーを廃し、帝国はおろかこの世界を破滅させんとしている超絶的な大罪人と認識させられていたからだ。

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