第13章「ていと」 7-3 いきなりここ
(い……いきなりここか……!)
皇帝が、皺だらけの顔をゆがめた。
狙ってやって来ているのだ。
「と、いうことは、高度知的生命体か、こ奴ら! しかも、相当な次元操作技術を持つ!」
皇帝が叫び、大広間の天井にまで届きそうな背丈の巨人たちを見あげた。
しかも、ただの人間ではない。
異次元人だ。
または、変身特撮ヒーロー番組に出てくる、異星人である。
外骨格人類、あるいは甲殻人類とでもいうべきか。
タケマ=ミヅカが「要石」としてこの世界そのものを天文学的規模の魔力奔流に引きこまれるのを防ぐべく次元固定しており、その力が1000年を経て限界に近づいていること、その次元固定のために生じている「次元のひずみ」より、時おり異次元異世界の「怪物ども」が現れること、皇帝騎士と特任教授たちが、それらを随時撃退するべく日々死闘を繰り広げていることは、すでに述べてある。
だが、ひずみから不定期に出現する怪物が、本当にただの怪物だった場合、これは撃退も容易……ではないかもしれないが、基本的に防げないわけではない。
恐ろしいのは「知的生命体」だ。
それも、時折どう見ても科学兵器や魔導兵器を有している戦闘部隊が出てくるのである。
出現するタイミングは全く不明で、それどころか目的も不明だった。
意思の疎通ができないのだから、とうぜんだ。
しかも、滅多に無いことであるが、どう分析してもタケマ=ミヅカを狙っていると思われる攻撃をしてくる場合があった。
今回も、そうだ。
前回記録より、実に、288年ぶりの出来事だった。
レッド・アラートにより、重魔法装甲と武器による完全武装の皇帝騎士が続々と地下大広間に転送してきて、特任教授たちも最上級の防御装備・防御魔術を施している。
「行け、行け、死を恐れるな!!!!」
身長が8~10メートルはある巨人たち、我々が見れば、一風変わったデザインのアニメのロボット兵器そのものだった。この世界の住人してみれば、それは外骨格に刺だらけ、全身のいたるところに文様や発光器があり、それが光る楯やら剣やらを持ち、背部や足より火を噴いて突進、飛翔魔術により虫のように群がる騎士どもを叩きのめして、特任教授の攻撃魔術を事も無げに防いだ。
それが、次元の隙間より次々に現れていた。
「何としても防げ!! ここから先に行かせるな!!」
皇帝が叫び、騎士や魔術師を鼓舞したが、それどころではなかった。
こんなバケモノ、1体でも凄まじいのに複数、しかも、見た目はツルツルのアワビのような形状をした物体を抱えた1体が、その物体よりサブマシンガンめいて光弾をばらまいた。
光弾と云っても、光学兵器自体が数メートルほどもある。しかも、原理もエネルギー源も不明だった。それが着弾と同時に上級の火球もかくやという爆裂を伴い、直撃した皇帝騎士は吹っ飛ばされて床に転がった。また、直撃を食らった空間の壁や天井に大穴が空いて、この緩衝空間の強度を弱めた。
(こ、ここを破られたら、メシャルナー様まで一直線だぞ……!!)
皇帝が青ざめる。
こやつらが、どういう目的で次元を超えて現れ、どうして要石を狙うのか。狙ってどうするのか。破壊するのか、鹵獲して持ち去ろうというのか……全く分からなかったし、分かりたくもなかった。
「突撃! 突撃!! 何度でも繰り返せ!!」
各隊の騎士隊長が叫びまくり、魔力や魔術効果により+200にも300にも攻撃力の上がった武器を携え、飛翔魔術で謎の敵の胸部や頭部を狙う。また、こんな地下閉鎖空間で使ってよい規模ではない大規模攻撃魔法が、雨あられと巨人たちに向かって飛んだ。
爆音と衝撃波で空間が揺れ、光と熱が降り注いだ。
屈強なリューズリィ皇帝エルフたちが重魔法装甲に身を包み、宙に浮いて攻撃しているさまは、まるで超電磁装甲アーマー兵のようだった。
「足を狙え!! 引きずり倒せ!」
皇帝騎士や特任教授の攻撃は、まったく無力なのではない。上半身を攻撃して気を逸らしつつ足元に群がりひたすら攻撃して、その最前列の外骨格巨人兵は片足の膝から下を砕かれ、切断されて、前のめりに倒れたところを一斉攻撃を食らって動きを止めた。
従って、倒せない相手ではなかった。
問題は、その数だ。
皇帝が確認しただけでも、8体いる。
その後ろの次元の隙間の奥に、さらに何体か見えた。
ここがもっと広かったら、この倍は展開していただろう。




