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第13章「ていと」 7-2 レッド・アラート

 「そう云うんじゃないよ、大公。ストラ氏の言動は常に謎めいているし、行動は神出鬼没だよ。魔力が無いから、私だって動向をつかめない。まして、人間には無理だよ」


 魔力のフードを外しているオネランノタルが、そうフォローした。

 「オネランノタル殿、かたじけなく……」

 ホーランコルが礼をしたが、

 「事実を云っただけだ。別に、ホーランコルを助けたわけじゃないよ」

 「それでも、嬉しく思います」

 「なんで?」


 人間の感情の機微が理解できないオネランノタルは、素でそう聴いたが、ホーランコルは微笑を浮かべて、


 「私が、勝手にそう思っているのですよ」

 「変なの~~」

 オネランノタルは、素っ気なくそう答えただけだった。


 「それにしても、敵の総大将からいろいろ・・・・情報を引き出そうと思ってたんだけど、ホーランコルたちがもう殺しちゃってたんだものなあ~~~」


 「申し訳ありません、それに、それこそ異次元魔王聖下御自ら、我らに御加勢を!」


 ルートヴァンがそのやり取りやホーランコルの紅潮する表情を嬉しそうに見やり、


 「じゃあ、スーちゃんが戻ったら、出発の日程を決めようか」

 そう云って、皆がうなずいた。


 それから、スタールがザンダルでもVIPが利用する高級ホテルへルートヴァンを案内し、ペートリューはこの借家に泊まって、キレットとネルベェーンも、スタールの手配でそこそこの宿に入ったのだった。



 その日、帝都は冬晴れだった。

 放射冷却現象が起き、帝都盆地はやけに冷えた。

 コンポザルーン帝は昼食をとった後、午後の執務まで茶を飲んで休息していた。

 「……」


 ヴィヒヴァルン製の大型の板ガラスによる窓より澄み渡る青い空を見あげ、眼を細めた。


 (タケマ=ミヅカ様がその使命を終えるとき……この蒼天も、暗黒に彩られるのだ……)


 それは、世界というか、この惑星が、大宇宙を流れる天文学的な魔力の奔流に飲みこまれ、惑星ごと粉々になることを意味する。もしくは、太陽系ごと……かもしれない。まさに、ブラックホールに飲みこまれるかのように。


 (それが、この世界の宿命だ……! 異次元から来たとかいう馬の骨に、その任が務まるわけがないし、務めさせてはならない……)


 ふと、違和感を感じて右手を見やると、皺だらけの手が、細かく震えている。

 その右手を左手で押さえたが、押さえた左手も震えていた。

 つい、執務机の引き出しにあるヨダレを求め、ソファを立ちかけたとき……。

 リューゼン城の全体に、魔術による緊急警報アラートが鳴り響いた。

 ただのアラートではない。

 最重要緊急警報レッド・アラートだった。


 「陛下!!」

 何人かの侍従が、執務室に転がりこんできた。

 「何が来た・・・・!!」

 「見たこともない連中だそうで御座りまする!!」

 「全皇帝騎士と特任教授に出撃命令! 非番のものも呼び戻せ!」

 「ハハァ!!」

 侍従の1人が、再び転がるように去った。

 そして、皇帝も老体に鞭を打って走り出していた。


 「へ……陛下!! どちらに!!」

 ヨタつきながらも、皇帝、

 「この老いぼれとて、補助魔法くらい使えるわ!」

 「おやめくだされ! 誰か、誰か陛下を!!」


 「ばか者が! わしの代わりなどいくらでもおるが、メシャルナー様は御ひと柱しかおらんのだぞ!!」


 「しかし……!!」


 皇帝は、まるで我々の世界の消化器のように一定間隔で通路に備えつけられている「転送窓」の1つに到達するや、手をかざして短く呪文パスを唱え、吸いこまれるように転送した。


 それは次元回廊の一種であり、城内の到るところを次元物理的につないでいる。通常時は、使用不可能である。


 皇帝が到達したとき、既に激しい戦闘が行われていた。

 「うおお……!!」

 皇帝も、思わず目を見張った。

 (この規模の侵攻・・は……すっ、数百年ぶりか……!?)

 にわかに、年数が分からないほどであった。


 しかも、場所は、タケマ=ミヅカが3つの黒色シンバルベリルと三重合魔魂テルミルを果たし、大魔神メシャルナー、大暗黒神バーレナードビュラーヴァル、大明神タケミナカトルという三神側面を得て鎮座している異空間である「神の間」のすぐ手前の、次元緩衝空間とも呼べるリューゼン城地下深くの大広間だった。

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