第13章「ていと」 7-1 ヨダレ以外のシノギ
そこでホーランコルがすかさず、
「スタール殿、こちらはヴィヒヴァルンの王子殿下にあらせられるので、大公であっても、殿下と御呼び頂きたく……」
スタールが軽く息を飲み、
「こ、これは大変な失礼を……!」
ルートヴァンが苦笑して手を上げ、
「敬称など、どうでもいい。好きなように呼んでいただきたい」
そこで改まって、
「ヴィヒヴァルンがエルンスト大公ルートヴァンである。スタールよ」
「ハ」
「勘違いしないでくれたまえ。ザンダルは、ヴィヒヴァルンの配下になったわけではない。あくまで、異次元魔王様のものとなったのだ」
「もちろん! 理解して御座ります」
「聖下の御ために、今までどおり、稼いでくれよ」
「もちろんで御座ります!」
「ただ……」
ルートヴァンはそこで少し視線を外し、
「できれば、ヨダレやらという無何有の出来損ないの取り扱いは、少しずつでよいから減らしてほしい」
「御言葉ですが、殿下、それが、一番大きなシノギでして」
「分かっている。できれば、でいい。それに……」
そこでルートヴァンが、またスタールを正面から見据えた。
「バーレ王国の無何有の残党ども、遠からず、聖下が皆殺しにする。そうなれば、ザンダルにそもそもヨダレが入ってこなくなるだろう」
スタールが、剣呑に目を細めた。
「……左様で御座りますか……」
「スタールよ。今はまだよい。無何有の出来損ないだからな。だが、失われた技術で精製された真の無何有は、いまの200倍の効果があるという」
それには、スタールも細めた目を見開き、
「に、200倍……!?」
「それが復活し、蔓延でもされたら、シノギどころではない。帝都はクスリ漬けで滅亡だ」
「確かに……!」
「それゆえ、幻の都市マーラルは、滅亡したのだ。あるいは、何者かによって滅亡させられた……」
ルートヴァンが遠くを見るような表情となり、スタールも意を決した。
「分かりました。ヨダレに関しては、殿下に一任いたします。我々も、ヨダレ以外のシノギを、少しずつ開発いたしましょう!」
「そうしてくれるか!」
ルートヴァンの無邪気な笑顔に、思わずスタールも、柄にもない笑顔を向けて深く礼をした。
「で、これからどうするんでやんす? ホルストンへ行くんで?」
プランタンタンの呑気な声で場が切り替わり、ルートヴァン、
「ホルストンの前に、ゲーデル山に上りたい」
「へえ!? ゲーデル山に!?」
プランタンタンが高い声をあげ、フューヴァも、
「え、するってえと、ピオラを送ってやるのかよ?」
「それもあるけどね、さっき説明した、古本屋のオッサンがさ、ゲーデル山の頂上付近から平原を見下ろすと、マーラルの影が見えるっていうんだ。見ておきたい」
「そんな得体の知れねえやつの云うことなんか、信じるのかよ!」
フューヴァが呆れかえって肩を落として叫んだ。
「オネランノタル殿は、どう思います?」
「どうも思わないね! そのオッサンとかいうやつに、会ってみないと……判断がつかないよ」
「では、出発前に、オッサンの店を訪ねましょう。聖下にも、是非ともオッサンを引き会わせたい」
そこで、ルートヴァン、
「ところで、そういえばそのスーちゃんは? いつもどこかへ出かけているとは報告を受けていたが……今日もかい?」
「いねえってことは、そうなんじゃねえ?」
ルートヴァン、少し口をとがらせ、
「フューちゃんやプランちゃんはそれでいいかもしれないが……ホーランコル」
「ハッ」
ホーランコル、嫌な予感がした。
「せめて、おまえは聖下の御行動を把握しておいてもらわなければ、な」
「も、申し訳も御座りませぬ!」
さっき褒められたばかりなのに、ホーランコルが深々と頭を下げた。




