第13章「ていと」 6-13 メダマコウモリ
「……!!」
この世界に来たばかりのころはこの攻撃でも出力不足で生身の肉体の胸に大穴が空く程度だったが、準戦闘モードも可能なほど総エネルギー量も回復しており、隊長は腰から上が爆裂して無くなった。
「……!!!!」
焼け焦げた肉片や血飛沫を浴び、護衛兵たちが次々に武器を捨てて逃げ出した。
「あ、ま、待て……!」
5人の魔術師たちが身構えたが、初手の攻撃でこの全員で放った魔法の矢の連射を防がれている。1人が、兵士たちに続いて逃げ去り、闇に消えた。
ストラが残った4人を見やり、たちまち1人が同様に走り去った。
残った3人のうちの1人が、必殺の「即死魔法」を思考行使でストラに浴びせた。
「……」
何の効果もない。
「わあっ……!」
2人がほぼ同時に逃げ出し、即死魔法を防がれた(と、思っている)1人が、足も震えてすくみあがって硬直し、
「いっいい命ばかりは御助けを!」
どうにか、片膝をついて平伏した。
「どうして?」
「え?」
「私が、あなたの命を助ける理由は?」
「は……!!」
思わず顔をあげてストラの顔を見やった魔術師、その彫刻めいた冷たく端整で人工的な顔立ちと象嵌のように不気味に光る鋼色の瞳をみやり、冷たい空気にドッと汗をかいた。
ストラは別に、本当に不思議に思ったのでそう聞いただけだが、魔術師は死刑宣告と受け取った。
死なばもろとも、あるいは一瞬のスキを作って脱出する機を得るため、自身の最大の奥義で大電圧の轟雷を思考行使! ありったけの魔力を振り絞って、至近距離よりストラにぶつけた。
瞬間、分厚い電磁バリアに反発し、全て魔術師に跳ね返った。
照明魔術を打ち消すほどの閃光が明滅してスパークし、一撃で魔術師は衣服が燃え、全身が炭化してひっくり返った。
ブスブスと煙をあげる魔術師の黒焦げ死体を瞬時にサーチしたストラ、
「自殺と推定します」
無表情にそう云い放つや、自衛戦闘モード3を終えた。
ホーランコルたち3人は、ストラが走りこんでからの中断突きの一発で分厚い門扉を破壊したのを見やり、驚きつつも、その門に入ろうとした矢先に、
「こっチだ、こッち!」
オネランノタルに似た甲高い合成音がしたので、そっちのほうに驚いた。
どす黒い目玉に蝙蝠の翼がついているような野球ボールほどの大きさの魔蟲が回りながら飛んでおり、それが上空から3人を呼び止めたのだ。
「なんだよ、ありゃあ!?」
フューヴァが叫んだが、
「オネランの旦那の手下なんじゃあ、ありやあせんか?」
プランタンタンがそう云い、フューヴァも即座にうなずいた。
「きっとそうだぜ! ホーランコル、行ってみようぜ!」
「分かりました!」
云うが、メダマコウモリが、
「コっちこッチ!」
と叫びながら路地を飛んだので、3人が続く。
傍から見ていると、まさに魔物が獲物を誘導しているようにしか見えないが、メダマコウモリは路地から路地へと飛び回り、けっこう屋敷から離れた場所の、路地裏の一軒家めいたみすぼらしい小屋というか、物置に3人を導いた。真っ暗だったが、プランタンタンはエルフの眼でそのまま見えるし、フューヴァとホーランコルもなんとか表通りより漏れる松明街灯の光で建物を認識した。
「こコだ!」
メダマコウモリに足が生え、フューヴァの肩に留まった。翼が、眼玉を覆うように畳まれる。
「おい、ここがなんなんだよ?」
「シッ! だマっテ見てロ!」
フューヴァが尋ねたが、メダマコウモリが鋭くそう囁いたので素直に黙る。
「フューヴァさん……」
ホーランコルがつぶやき、フューヴァとプランタンタンも息を飲んだ。
固く閉じられているはずの扉が、裏から静かに開き……ランタンの光が闇を差した。
すぐに、見るからに動揺し、恐怖に震えている小太りの男と、護衛と思わしき剣士が2人、現れた。外套を着こんでいるが、見るからに緊急脱出したのが分かった。
「もしかして、ありゃあ……」
フューヴァが囁いた。




